出版社内容情報
けれど、犀利な彼女は知っている。
その風で あたためられた
世界の余熱に、
歌の言葉が
生かされていることを。
─────堀江敏幸(帯文より抜萃)
短歌研究新人賞受賞作「冬の火」収録。
たしかな足取りを示す第一歌集!
君はいま泣かねばならぬ 今すぐにレイン・コートを脱がねばならぬ
祖父の記憶は雪に近づきわたくしはピエロの顔をしたゆきだるま
頬のつめたきはずのひとりをさがしつつ蕾のおほき庭を歩めり
答へなど持たぬまま会ふ雪の日に会へば雪降ることを話して
旅先にふたりでひとつのトランクを引きゆくやうに君と暮らさむ
装幀=岡孝治+鈴木美緒
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
双海(ふたみ)
8
こんなに笑った歌集は初めてかもしれない。おすすめ笑 短歌研究新人賞受賞作も収録。「西門のきんもくせいに揺られゐる自然数とふうつくしきもの」「会ふことと共に暮らしてゆくことのあひだに積もることもなき雪」「ぐでたまとひとはよぶなりうつぶせにだるさのままに寝そべりをれば」「われの奇行の続くを見ればまた歌ができないのかと君は怯えぬ」「ふとんが好き だいすき そこにゐるだけで、寝てゐるだけで、許さるるゆゑ」その他、闇鍋の連作も愉快。2023/09/18
わいほす(noririn_papa)
7
著者第一歌集。古文の非常勤講師らしく、文語の使い方が上手で勉強?になる(笑)。うらがへしあて名を書かば砂となりこぼれてしまひさうな絵はがき。もっとも面白いのは男子校編。万葉集の「人妻」なるにさつきからエロいエロいと騒ぎやまずも/ほんたうにアホだしいいやつだと思ふ「寄り寝」一語に大喜びで/「女御」の読み問へば「おなご」と答へゐて一枚めくればそこには「あねご」。男子校あるある大爆笑が並ぶ。春キャベツのアーリオオーリオ溜息を乗せるにちやうどよき母音かな。なるほど、これは愚痴でもよいかもしれない(笑)2024/10/13
Cell 44
2
読んでいて何度も笑った。歌集で何度も笑ったということは、あまりない。いい歌集だと思う。「身のうちに魚を棲まはせええ、ええ、と頷くたびにゆらしてをりぬ」「会ふことにも会はざることにも裏庭からさるすべりのはなびらが散りくる」「非常勤講師のままで結婚もせずに さうだね、ただのくづだね」「金麦はかなしからずや青の缶、白の缶にも麦の絵揺れて」「みずいろのらせん階段を降りてくるあなたは冬を燃やす火になる」2021/04/25
浦和みかん
1
5章構成。Ⅰ章はどちらかというと詩的エッセンスが強く、旧仮名遣いが目立つ。Ⅱ章以降は出来事を詠もうという感じが強い。全体として、無理くり良い歌・良い歌集を目指すというよりは、感情や出来事に嘘をつかないで詠う、という印象で、その点に好感を持った。国語教師であることも関係するのか、文語の使い方には少し特徴がある。<とんとん、と煙草の灰を落としゆくごとくに人は人を裏切る><返信に船の絵文字を使ふだけでさびしがりやと言はれてしまふ><君の向けくるカメラを避けて藤の花に垂るる時間の長さを思ふ>2018/07/11
あくぱ
0
言葉の繊細さ。そして闇鍋に笑う2018/09/21