出版社内容情報
震災、原発、母の老い、不穏な世情、内戦、難民・・・。
生きがたい時代を
懸命に生きる人々の
命のきらめきを見つめて。
『いびつな果実』『ひといろに染まれ』に続き
七年ぶりに世に問う第三歌集!
あふぎ見るたわわの桜すべての歯こぼれるまでに母は生きて来て
「ふるさとを除染するため」食べるため原発へ向かふひとバスに消ゆ
〈保育園落ちたの私だ〉プラカード持つパパはゐず泡雪が舞ふ
シリアから逃れしだれもが持たぬ鍵ひかれりわが家のドア閉むるとき
ひといきにキャンドルの火を吹き消せばくらやみに生るつぎの戦火が
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
太田青磁
9
放射能は見えざればひたに美しき銀杏もみぢと眺めるゆふべ・手の中に楽をもちたき秋の日よ冷えしハモニカくちびるに当つ・星空の譜はあらわれぬ「紙」というきみに差しだす手帖の罫に・楽器、舞、詩歌を搬ぶトラックで楽屋口けさも港のにぎはひ・染め抜きののれん濃藍こだわりの品書きは「鴨南蛮」と「かけ」のみ・四ツ谷へとわれを追い越すかぜ寒くひび割れて鳴るソフィアの鐘が・雨の日に咲けば雨しか知らぬまま朝顔は青き傘すぼめたり・びりびりと傘の張り地をふるはせて米軍機わが家路かすめ飛ぶ2017/10/03
てくてく
4
2010年秋から2017年春までの作品の中から338首を収めた第3歌集。能楽、仕事、40前後の女性の日常などを詠う。ふりむかず次の役へと向かやうなひと見送りて改札に冷ゆ/ さくら咲きわれは舞ふのみだれもみな代役のきかぬいのち生きゐて / もはや子は授からぬだろうふたつのみ残しグラタン皿捨つる秋 / 四十歳の乾いた坂をゆく枯れ葉 消息を絶ちたる友もゐて / アルバイト、派遣、非正規呼称のみ変はりて友は酒に呑まれつ / ほんたうの母を知らずきひとりゐの憂ひこんなに拗らせるまで 2023/03/13