内容説明
なぜ、ヴァルザーはかくも重要なのか?20年以上にわたるヴァルザー読解を通じて、今、この問いに答える。多くの作家たちに愛されつづけたヴァルザーの文学的闘いの足取りを多様な方法で浮かびあがらせる。
目次
第1部 『ローベルト・ヴァルザー作品集』を読み解く(「散歩文」の原風景―散文小品『グライフェン湖』を読む;「母の言葉」と「王子言語」のあいだから生まれる虚構言語―初期小劇『白雪姫』を読む;「母の言葉」の喪失を埋めてゆく散文―ベルリン時代の長編小説『タンナー兄弟姉妹』をその前史から読む;「大ベルリン」vs「小ヴァルザー」―ベルリン時代、ビール時代の散文における差異化の運動を読む;「はじめて書きつけた慣れない手つきの文字」に出会うための散歩―ビール時代の中編作品『散歩』を読む;「ミクログラム」のもたらす幸福―ベルン時代の長編小説『盗賊』を読む)
第2部 翻訳からヴァルザーの原作を読み直す(『白雪姫』全訳;「イメージ」、「意味」、「物語」の/に抗する、レトリックを翻訳する―『白雪姫』の英・仏・日本語翻訳比較分析;絵で描く存在を文字で描く存在を翻訳する―ベルン時代の散文小品『ヴァトー』を読む)
著者等紹介
新本史斉[ニイモトフミナリ]
1964年広島県生まれ。専門はドイツ語圏近・現代文学。翻訳論。現在、津田塾大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
19
ヴァルザーにとっての書くことの幸福さ、そして仮借なさ、また私たちが彼の文章をとおして感受する奇妙な微笑ましさについて、ヴァルザーと同じ目線(よく知られているように、後年のヴァルザーは机に鼻を接するほどにかがみこみ、眼鏡すら使わず、紙片に鉛筆書きで極小文字を書きつけた)で丁寧に読みほどいていく。今後、ヴァルザーを読んでいくうえで、おそらくは何度となく参照することになるだろう素晴らしい作家論だった。じぶんの場合、まだまだ未読のヴァルザーがたくさん残されている、その幸福を噛みしめながら読んだ。2020/11/30
ルーシー
3
第一部第二章〜五章まで読んだので一旦読了とします。論文をまとめたような感じなので難解でしたが「ヴァルザーの小説面白いな…なんかよくわかんないけど、すごく良い…!」をはっきりした言葉で語ってくれる一冊です。特に第五章のミクログラムと『盗賊』についての解説がとても印象に残りました。『盗賊』についてはまんまとヴァルザーのトリックにハマっていたんだなとやっと気がつきました…。出版に至らなかった幻の二作目の長編小説(タイトル不明)や『トーボルト』『テオドール』などの作品が散逸してしまったことが本当に口惜しい(血涙2021/05/16