内容説明
細かいカット割りとつなぎを観る者に意識させない自然さ、演技力のある俳優からも経験のない新人からも、同じく必要な演技を的確に取り出すことができる演出術、撮影、美術、照明などのスタッフとの見事な協働ぶり―これらを「職人芸」という修辞に頼るだけでは成瀬作品の真価を解き明かすことはできない。なぜなら、映画を観ることが観客の経験として残るような映画は唯一、成瀬巳喜男によってもたらされているのだから。
目次
序 異貌の成瀬巳喜男の方へ
第1章 作動ではなく行為を見せる映画
第2章 装置―環境をもたらすこと
第3章 場所―狩りの獲物としての運動
第4章 主題と動機―交通のなかの力
第5章 展開と生成―諧謔そして劇性に背く意志
第6章 知覚上の出来事としての映画
結 消えてゆくもの、そして立ち上がるもの