出版社内容情報
悪漢の魔の手を逃れ、故国フランスに辿り着いた
エミリーは、かつて結婚を誓ったヴァランクールと
痛切な再会を果たす。彼が犯した罪とはなにか――
刊行から二二七年を経て、今なお世界中で読み継がれるゴシック小説の源流。
イギリス文学史上に不朽の名作として屹立する異形の超大作、待望の本邦初訳!
どれほど彼女がモントーニの悪辣さに苦しめられたかを聞くにつれ、憐れみと憤りの感情が交互に彼の心を支配することになった。彼女はモントーニの行為を語るにあたり、その罪深さを誇張するというよりは、むしろ控えめに話したのであったが、それでも、それを聴いていたヴァランクールは、一度ならず椅子から立ち上がり、その場から歩み去っていった。それは、怒りというよりは、自責の念に駆られてのことのようであった。
「わたしの苦しみはもう終わったのです」彼女は言った。「だって、モントーニの暴虐から逃れることができたのですから。そして貴方も元気そうだし――どうぞ悲しそうなお顔はなさらないでくださいまし」
ヴァランクールは前にもまして動揺した。
「エミリー、僕は貴女にふさわしい人間ではない」彼は言った。「ふさわしい人間ではないのです……」(本書より)
内容説明
悪漢の魔の手を逃れ、故国フランスに辿り着いたエミリーは、かつて結婚を誓ったヴァランクールと痛切な再開を果たす。彼が犯した罪とはなにか―。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
59
エミリーの父親が死の病をおしてまで南仏に行きたがったのには理由があった。叔母に引き取られたエミリーがユドルフォ城に連れていかれ、さらに父親が亡くなった地に戻ってきたのは、すべて、それが宿命だったから。薄幸の美少女、恐ろしげな古城、そこで起きる怪異、宿命、とゴシックホラーの要素をてんこ盛りにして、でも波乱万丈ながら最後はハッピーエンドとなるラブロマンスもついている。出版当時は大ベストセラーとなったらしいが、あまりにもごちゃごちゃしすぎているし、なにより訳がひどい。2022/01/04
星落秋風五丈原
31
【ガーディアン必読1000冊】ユドルフォ城では伯母マダム・シェロンが亡くなる。ところで彼女は想像力が豊かで、城に捕虜がいると聞けば愛しいヴァランクールの声を聴いたような気がして落ち着かない。まだ死んでもいない伯母が「死んじゃったのかも!」と赤毛のアンばりに想像力を逞しくして、悪い方へ悪い方へと自分を追い込んでいく。父親から「自制心を持つように」と言われた事は、あっさりリアルな世界では忘れられたようだ。そこへもってきて侍女が城にまつわる幽霊話を聞かせるものだから、想像力の暴走がどうにも止まらない。2021/10/05
のりまき
19
とても面白かった。回りくどくて、曖昧な言い回し。ドロシー、アネット、おまえの話はいいから、早く本題に入っておくれ❗とそんな気持ちになるのもまた楽しい。あれはどうしたの?っていう謎も終盤きちんと解明されます。2024/04/05
ROOM 237
12
上巻から煙に巻かれた数々の謎や疑問点が下巻に入り更に追加で混迷を極め、メモと相関図を書きながら無事読了。国を跨いで次々お城と大自然の中を移動しまくる様子が最早、ご令嬢と行く16世紀ゴシックロードノヴェルの旅状態。パカラッ。胃潰瘍寸前の悲劇の連続をサバイヴする主人公エミリーの逞しさと慈善心が陽なら、陰は彼女を苦しめた者達の良心の呵責という生きながらの煉獄。信頼の回復という難しいミッションに挑む人、機密事項を速攻で漏らす侍女達、噂の独り歩きなどの人間味に溢れるゴシック作品で大満足でした。2023/01/18
内島菫
11
ユドルフォ城とルブラン城という、二つのゴシック様式の廃城だった場所で起こる怪奇現象は、すべて生きた人間のなせる技だと解明されるが、おそらくこうしたオチはあまり重要ではないだろう。ユドルフォ城のかつての女主人の失踪や、ルブラン城主夫人の変死がこれらの「テラー」(ラドクリフ自身が述べているという意味での、「ホラー」と区別された「テラー」)を下支えし、さらに城とそこに至るまでの自然の峻厳な山々とが、層になってゴシック小説の世界観を盛り上げている。2024/08/27