内容説明
本書は台湾クィアSF小説の旗手、紀大偉の代表作4篇を訳出したものである。「膜」「赤い薔薇が咲くとき」「儀式」は、“記憶”を題材にした作品となっている。「膜」と「赤い薔薇が咲くとき」は、近未来社会における先端科学による記憶の移植・改竄・消去と身体改造を描いており、時間と空間が相互に複雑に交差する異空間の中で、クィアの転覆性を表現している。「儀式」は主人公の記憶と「事実」との間の矛盾を突くことによって、ホモフォビアの内面化を描いている。また、「朝食」は、第21回聯合報ショートショート賞第1位を受賞した。
著者等紹介
紀大偉[キダイイ]
1972年、台湾台中県生まれ。現在、アメリカコネチカット大学外国語学科准教授として教鞭をとっている
白水紀子[シロウズノリコ]
1953年、福岡生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は中国近現代文学およびジェンダー・セクシュアリティの研究。現在、横浜国立大学教育人間科学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
月世界旅行したい
9
まさかここまで本格的なSFだとは思わなかった、傑作。2014/12/14
ヴィオラ
7
同性愛にも両性愛にも別に偏見はないと思うんだけど、フィクション上では今まで何度も遭遇しているので、逆にそこを前面に出してこられると逆に戸惑う感もw こういう感覚は、本を、SFを読んでいて良かったなぁと思うところかも。 というわけで、クィアSFと特に意識する事なく読みましたが、なかなか面白い。特に表題作は様々な「膜」について描きながら、うまくSF的着地をしている良作。中華圏SF、探せばまだまだ傑作が眠っていそうです。 誰か!w2018/10/16
すけきよ
7
同性愛テーマの台湾作家SF短篇集。表題作が素晴らしい。冷え切った関係修復はSFならではの母娘物語。物語のキーにもなっている皮膚膜スキャナーがなかなか印象的で、それによる母のパソコンへのハッキングはかなりしびれる。そこに現れるものにゾッとし、そこから、イマイチ判然としなかった一人語りの真相が明らかになり、それまでとは違うベクトルのSFにシフトする様は見事。SF的には真新しいガジェットも、ラストも珍しくないんだけど、そこから目を逸らされている展開もいい。ショートショートの「朝食」も異色系として気に入った。2009/10/07
スターライト
4
叢書名通り、台湾作家によるセクシュアル・マイノリティ作品集。巻頭に配された「膜」が、人の記憶やアイデンティティを扱っていてきわめてSF的。というより、イーガン作品と言われても信じてしまうほどの出来。次の「赤い薔薇が咲くとき」あたりまでがSF色が出ているが、「儀式」はいわゆるやおい小説だろう。最後の「朝食」は、ラストがこわい。でも主人公の愛人は男性だそうなので、やはりセクシュアル・マイノリティ作品なのだった。巻末に訳者による解説が、この傾向の作品と台湾SFの簡単なスケッチになっていて、興味深い。2010/09/09
funa1g
1
表題作と「赤い薔薇が咲くとき」が想像以上にSFだった。説明がやや過剰だが、ガジェットの組み合わせ方、見せ方が面白い。表題作のスキンの使い方には、飛浩隆「クローゼット」を思い出した。2011/06/06