内容説明
二〇世紀後半からチベット医学は、専門資格化や薬の大量生産といった制度化が進んだが、そこでの医療実践は「伝統/近代」や「制度的医療/土着医療」のように断片化しているのではなく、それぞれの実践が部分的に重なり合い、医療・身体・環境が複雑に絡まり合っている。伝統治療者、薬師、僧、村人、薬草、制度、神霊、インフラ。様々な人とモノが協働するなか、ヒマーラヤ東部のタワンの人々が経験する体の節々の痛み、胃炎、毒盛りや神霊による祟りといった病いと、そこであらわれている不確かで複数的な身体を、気鋭の人類学者がフィールドワークをもとに丹念に描く。
目次
第1部 チベット医学の開発(チベット医学の制度化とアムチ;チベット薬の標準化とタワンの人々)
第2部 ナツァの病いとチベット医学の実践(タワンの暮らしとナツァの治療;チベット医学の診療実践)
第3部 神霊と妖術における病いと薬(神霊ルーによる病いと開発;憑依と宗教薬;毒盛りの妖術と民間薬)
著者等紹介
長岡慶[ナガオカケイ]
日本学術振興会特別研究員(CPD、関西大学)。専門は医療人類学、環境人類学、南アジア研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
BLACK無糖好き
22
高山植物に囲まれ森林豊かな東ヒマーラヤのタワンは支配国がチベットからインドに変わり、中印国境紛争の戦場ともなった地域。ここでのチベット医学を中心とした医療実践を通して、地域住民の病いと医療ヘの向き合い方を描いた医療人類学の研究書。独特な医療が施されていてとても興味深い。制度的チベット医学と土着医療が実践の場で重なり合っている様も見て取れる。神霊の祟りや憑依に関する儀礼実践についても、地域の歴史や開発の文脈に位置づけて論じることで深みが増している。毒盛りの妖術師とそれに対する薬の関係性には驚かされた。2023/02/19