感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nobuko Hashimoto
28
ドイツ文学、中欧文化のテキスト。ハプスブルク帝国のハンガリーを除いた部分が対象。「中欧」という言葉の定義や概念の変遷に始まり、①チェコにおけるドイツ語・ドイツ文化、②オーストリアのユダヤ人の同化について、③帝国解体から現在に至るオーストリアのアイデンティティの3部からなる。それぞれ歴史と、テーマに即した作家や作品を絡めて論じてあり、年表やブックガイド、索引もあり、地図や図版が豊富でたいへんありがたい。このあたりを学ぶ人には使い勝手が良い。もっと値段が低ければ輪読ゼミのテキストに指定したいのだが…!2021/03/25
しお
1
中欧文学史講義だが、近代史も拾える。学部講義がタネなので読みやすい。「中欧 Mitteleuropa」が悪名高い言葉なのはあまりに多くの用例がナチスによって簒奪されているからであるが、ハプスブルク領でいて二重君主国からもほかの大国からも周辺化されつつ同化を迫られ、屈折の中で擬態を図ったり融和を試みたりする(そうせざるを得ない)なか、ひとが自らの不安定さ・流動性を直視するとき「中欧」が確かにある。「こうでなければならない/別様であったかもしれない」というクンデラの言は、この文学的想像力の端的な総括でもある。2025/05/10