内容説明
1992年10月2日、サンパウロのカランヂル刑務所にて、囚人111名が軍警察によって虐殺された。この刑務所に勤務していた医師ドラウジオ・ヴァレーラによって描かれる、日々の出来事のスケッチである本書は、ブラジル国内でベストセラーとなり、映画化されカンヌ国際映画祭パルム・ドールにもノミネート。暴力、麻薬、エイズ、密造酒にとりまかれる、囚人たちのユーモラスな生の断片集。
目次
序章
カランヂル駅
大きな家
棟
房
太陽と月
週末
個別訪問
コカイン注射
講演会〔ほか〕
著者等紹介
ヴァレーラ,ドラウジオ[ヴァレーラ,ドラウジオ] [Varella,Drauzio]
1943年、サンパウロ市生まれ。腫瘍医。AIDS予防キャンペーンでメディアに登場、その後、医療ジャーナリストとしてニュース番組などに出演。コメンテーター、作家としても評価が高い
伊藤秋仁[イトウアキヒト]
京都外国語大学ブラジルポルトガル語学科教授。専門はブラジル移民史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
63
大量虐殺によってその名を轟かせたカランヂル刑務所。そこでの日常や収監者たち、生活文化と社会構造を、当時医師として勤務していた作者が克明に描き出した傑作ノンフィクション。女性や食事を巡る道徳的な不文律、悪党たちが作り上げた「秘密のネットワーク」、何よりも服役者それぞれが持つユニークな物語に終始魅了された。暴力と麻薬が蔓延る悍ましくも滑稽な世界は、極悪人たちも儚い人間性を持っていることの証でもあるのだ。それだけに最後の三章には絶句した。事件の余波、指揮官の末路や国家への影響なども含めて衝撃の一冊である。2021/03/25
nobi
49
多い時には9000人を収容したというブラジルのカランヂル刑務所。そこの医者ヴァレーラの記述は映像的。特色ある7棟それぞれの様子も一人一人の表情も見えてくる。殺人が日常茶飯であった刑務所内で下手すれば自ら犠牲となるリスクを常に感じながらの診察。診察に留まらず注射の使い回しから蔓延していたエイズの感染予防の講演会も開催する等、彼らの苦しみを軽減しようと尽力。その豪胆さと誠実さと人間味が囚人達の頑なな心を開いていく。そして彼らの物語が積み上がる。最後軍警の突入による惨事の章は息つぐ間もない。鎮魂の書でもあった。2021/12/12
りー
24
サウダーデ、これはサウダーデの物語だ。何の前知識もなく囚人たちの暮らしを知りたくて読んでみたのだけれど、そういった文化的側面よりも群像劇としての色合いが濃厚。一癖も二癖もある受刑者たちが代わる代わる魅力的な側面を見せつけ、そして読み手もあたかも彼らの一員になれたのではと錯覚させられたその頃に、百年の孤独を思わせる怒涛のクライマックスが待っている。ドキュメンタリーでありながら良質なラテンアメリカ文学だった。2021/04/13
Lilas
3
新聞の書評で紹介されていたので読んだ。衝撃。刑務所も警察も登場する男女も、日本のそれとまったく違う。野生的、直情的etc、とにかく濃厚。多くは悲惨といえば悲惨な話なのだけれど、乾いた筆致で読ませる。半ばくらいから濃度が増して止まらない。度胆をぬかれる一冊でした。少し混乱したのは、この本がいつ書かれたか分からなかったこと。途中で事件との関係もあり、はて?となって訳者あとがきを読んだら原著は1999年とあった。これ最初に書いて欲しかったな。私が見落としたのかしらん。2021/07/15