出版社内容情報
●エレクトロニクスからバイオまで、幅広い分野を網羅!
●ベル研究所・G.Timp博士の編集によるナノメートルフロンティア探検への誘い
●ナノ構造体の設計、構築、評価のすべて
翻訳にあたって
周知の通り、ナノテクノロジーは次世代の技術文明を担うべく、大きな期待を寄せられている新しい学問分野であ
る。そこでは、伝統的な専門分野であるエレクトロニクス、機械工学、物理学、化学、磁性学、材料科学、それに生物
学にまたがる広範な知識がブレンドされて、画期的なテクノロジーが開かれようとしているのだ。
本書は、ナノテクノロジーがカバーする様々な分野を概説するとともに、将来的な発展が期待されるものとその際の
問題点、さらには、究極の夢物語までを幅広く解説している。まさに、ナノテクノロジーに携わる者にとってバイブル的
な意味を持つ1巻であると言えよう。
序章である第1章は、中世のヨーロッパ文明に斬新な情報をもたらして、ヨーロッパ社会が東洋に先がけて豊かな
発展を遂げるきっかけとなった、マルコポーロの逸話から説き起こされている。このことからもわかるように、各章の
執筆者はいずれも、ナノテクノロジーが人類社会にもたらすであろう利便に関して自負と夢を抱き、世界の先頭に立っ
て研究をリードしている面々である。
各章は、それぞれの分野の位置づけと現状、それに将来の見通しを簡潔な中にも的確に解説すると同時に、基本的
な原理もわかりやすく記されている。原書の出版(1999年)から数年を経た今でも、本書の内容が持つ先見性の新
鮮さはいささかも薄れていない。本書は、いままさにナノメートル領域の研究・開発に携わっている大学、研究機関、
企業の研究者はもとより、ナノテクノロジーに関心がありチャレンジ精神旺盛な者にとっては、必ず備えておきたい座
右の書である。
一口にナノテクノロジーといっても、それを扱う分野はエレクトロニクスから生物学まで多岐にわたっており、本書で使
われている専門用語の訳出にあたっては困難に直面することがしばしばあった。また、直訳しただけでは理解し難い
文章もいくつかみうけられた。これらについては、原文を括弧書きで示したり、訳者注をつける等して、極力原書の
意図が読者にわかりやすく伝わるようつとめた。
平成14年初秋 廣瀬 千秋
内容目次
1.ナノテクノロジー
2.次世代のコンピュータおよびコミュニケーションのためのナノエレクトロニクス
VLSI企画“1個の素子ではなく10億個の素子を” CMOSの限界性能:乗り越えなければならない目標 予想され
る代替テクノロジーとCMOSとの比較
3.動くナノ構造体:ナノメートルサイズの物体を動かすためのミクロ装置
マイクロ計器およびマイクロシステムのアーキテクチャ コンパクトな容量マイクロアクチュエータとスケーリング則
3次元マイクロアクチュエータにおけるマイクロ構造体に関連した課題 単結晶シリコンプロセス 周波数のスケ
ーリングおよび入れ子式マイクロアクチュエータ 電気機械的チューニング,非線形MEMSとQ値 単結晶シリコン
カンチレバーと先端子 アレイアーキテクチャとナノメートルスケールマニピュレータ マイクロ装置,マイクロマシ
ンおよびナノメートルスケーリング
4.汎用リソグラフィーの限界
高解像度リソグラフィ入門 実験室用の汎用高解像度リソグラフィの限界 ナノ構造形成で製作した構造体の例
開発および生産に対するリソグラフィからの要請 21世紀の高スループット代替リソグラフィ 研究用の汎用リ
ソグラフィにおけるトレンド
5.原子制御したナノ構造体の構築とデバイスへの応用
原子制御したデバイス構造の構築 エネルギー単位の制御とフォトニックデバイス 電界効果トランジスタおよび
2D/1D電子の伝導 二重障壁および関連デバイスにおける共鳴トンネル効果 まとめと展望
6.半導体ナノ結晶およびナノ結晶材料における化学からのアプローチ
電子的特性および光学的特性 構造相転移 材料とデバイス
7.カーボン材料におけるナノテクノロジー
ナノ構造体としてのフラーレン ナノ構造体としてのカーボン細管 炭素タマネギ 応用の可能性あれこれ
8.マイクロ構造体およびナノ構造体における自己組織化と自己組織化単層膜
自己組織化 自己組織化単層膜 単層膜表面に対するSAM描画 SAMの用途 当面の課題
9.厳密に構造制御された高分子の生体触媒合成
構造タンパク質の発現 明確(WELL-DEFINED)なポリペプチドの新規(DE NOVO)な設計と合成 人工アミノ酸の
タンパク質組み込み ハイブリッド人工タンパク質
10.原子分光:光を使って原子を並べる
原子の操作 原子光学を用いたナノ構築における最近の研究 将来の展望
11.ボトムアップ法:原子からものを構築する
12.ナノメートルスケール磁石の物性
メゾスコピック磁性 走査トンネル顕微鏡を使ってマイクロ構築した磁石 リソグラフィ法で調整した磁石 生物
磁石 Micromagnetismの時空的研究 結びと将来展望
13.量子ドットにおける単一電子輸送
歴史,製作法,および測定技術 量子ドットにおける電子輸送の理論 量子ドットにおける電子輸送の実験 高
磁場中の量子ドット 量子ドットにおける交番輸送 応用と将来の方向性
14.バリスティックナノ構造体におけるカオス
第Ⅰ部:理論 予備的な概念 古典的サイズ効果 開放系における量子輸送 その他の系 要約と今後の
方向
第Ⅱ部:実験 基本的な概念 バリスティックナノ構造体のコンダクタンスの形状依存 コンダクタンス揺らぎ
コヒーレント後方散乱と弱局在
15.InAs/AlSb材料系における半導体及び超伝導特性の物理とデバイス
1次元細線における量子化コンダクタンス 超伝導体-半導体ヘテロ構造体 InAs/AlSb材料系:テクノロジーと
基本的な特性
原 著 編 者
Gregory Timp
Bell Laboratories, Lucent Technologies
翻 訳
廣瀬 千秋
東京工業大学名誉教授、理学博士