内容説明
小説(家)たちは、自らの有機体化にいかに抗い、いかに身を浸したのか。―誰よりもあたたかな視線を持つ批評家の、誰よりも真摯な思考の集成。
目次
序 “テクスト表象”性から顔をそむけて
1 不参戦者の“戦い”―後藤明生の出発
2 一九六八年の文学場―“近親愛”と“もう一つの部屋”
3 母=語の脱領土化―一つの長い後藤明生の“戦い”
4 献立・列挙・失語―表象の基底へ/からの金井美恵子の“戦い”
5 動物になる 動物を脱ぐ―金井美恵子的“強度”の帰趨(1)
6 分割・隣接・運動―金井美恵子的“強度”の帰趨(2)
7 有機体のポリティーク―テマティスム言説批判
8 水による音・声・言葉の招喚―吉井由吉を聴く中上健次
9 浸透・共鳴・同一化―中上健次のアポリア
著者等紹介
芳川泰久[ヨシカワヤスヒサ]
1951年埼玉県生まれ。1981年早稲田大学大学院博士課程修了。現在、早稲田大学大学院文学研究科教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zumi
13
そこで取り上げられている作家の全ての作品を読みたくなってくる。実にアツくて素晴らしい批評だった。書くこと、それは戦いを遂行することに他ならない。後藤明生は「不参加者」としての自覚を持ちながらも、食べることによって占領された発語器官を、書くこと・語ることの領域に奪い返そうとする。一方、金井美恵子は、食欲の失調から嘔吐を引き寄せ、摂食器官はおろか、発語器官そのものを封じこめ、言語というフィールドそのものへの問いを突きつける。彼らの小説は、言葉の領土・境界線をめぐる戦場となるのだ。2014/04/18
なめこ
2
主題論批評=テマティスムを、細部の意味を網目のように組織化しテクストの再現性に資することで言葉それ自体の、書くことそれ自体の生動を阻むものとして批判的に捉えている視点がとても刺激的だった。特に金井美恵子のテクストを浸している<水>についての論考が面白い。テクストの有機体化=テマティスムにぎりぎりのところで抗うことができる金井美恵子、そして中上健次の戦略を読みとってしまう著者の文学への熱を感じる。2015/09/18
浅見和重 Kazushige Asami
0
細部への偏愛。論じている作品、作家はかつて私も熱心に読んだ。2013/10/05
s_i
0
脱領土化ァ!(ドン!)2012/05/27
はしもと
0
後藤明生と金井美恵子について〈団地〉と〈献立〉を前線とした〈書くこと〉の戦いであるという面白い切り口から鋭く分析する。明生が『挟み撃ち』において様々な文学作品を横断的に語っていることを「脱領土化」と名付けてポストモダン的な〈引用〉と線引きをした点は自分が読んだ感覚と近い。ゴーゴリの『外套』や永井荷風の『濹東綺譚』をなぞるだけの作品ではなく、その言葉までも吸収してしまっている点で『挟み撃ち』は稀有な作品なのだろう。金井美恵子の作品もかなり読みたくなった。2018/07/21