内容説明
戦闘が激しさを増すなか、主人公クリストファー・ティージェンスの妻シルヴィアは、かつての愛人ペローンを利用して兵站基地へ乱入。怒り心頭に発したキャンピオン将軍は、騒動に関与したペローン、マッケクニー、ティージェンスを同じ列車で前線送りにする。果たして三人は前線で生き残れるか?
著者等紹介
フォード,フォード・マドックス[フォード,フォードマドックス] [Ford,Ford Madox]
1873年生まれ。代表作にParade’s Endとして知られる第一次大戦とイギリスを取り扱った四部作(1924‐8)などがある。また、文芸雑誌English ReviewおよびTransatlantic Reviewの編集者として、D.H.LawrenceやJames Joyceを発掘し、モダニズムの中心的存在となった。晩年はフランスのプロヴァンス地方やアメリカ合衆国で暮らし、1939年フランスのDeauvilleで没した
高津昌宏[タカツマサヒロ]
1958年、千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、早稲田大学大学院文学研究科前期課程修了、慶應義塾大学文学研究科博士課程満期退学。現在、北里大学一般教育部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
112
シリーズ第3巻。感涙。ティージェンスの持つ、マクマスターやシルヴィアらとの違い、それは誇りだと思う。それが彼を彼たらしめる。書かれたのは1920年前半。舞台は第一次世界大戦が中心。「戦争と平和」や「失われた時を求めて」の人たちがここにもいる。主人公が、もう敗退が決定的なドイツ兵に対し、「空の腹を抱え、それが生み出す悪夢を見ながら地獄に生きねばならないドイツ兵にそんなことはしたくなかった。もはや自然の力が、インフルエンザが彼らを10人に1人の割合で殺しているというのに」ああ、スペイン風邪なのだ。この時は。2021/01/13
NAO
82
貴族としての矜持に加えて、不義の子ではないかとの悪意ある噂や父の自殺といった複雑な環境のために、自ら動こうとすることなく、常に消極的で冷めた目で社会を見ていたクリストファー。そのクリストファーが、戦場で、初めて自分から考え、行動を起こす。戦場で起こったクリストファーの変化は、以後の彼の生き方に大きな変化を与えるものになったのだろうか。さらに、この作品では、第一次世界大戦の戦場において文化活動が盛んにおこなわれていたということが特徴的に描かれている。2019/09/14
Э0!P!
3
封建制度的価値観に翻弄されてきたティージェンスが、戦場での非合理的暴力、マッケクニーのパラノイア、ダケットへのフェティシズムに揉まれながら、どうすべきか確信を持てないままにヴァレンタインへの愛に燻り続ける。対して、ヴァレンタインの敵は必ず電話から現れるヴィクトリア朝的価値観の亡霊たち。困難は山積みだが、戦争、いや、戦場から新時代の揺籃を携えた男たちによって、時代が大きな変化を迎えるための予徴が満ち始めていた。深く傷ついた人々を癒す解放の歌が鳴りわたるのはきっとあともう少し。2024/03/06
takeakisky
0
終戦から始まる。銃後には銃後の閉塞感。クリストファーが生きて戻っていること。会えずにいる今。ヴァレンタインとともに、やきもきを引き摺りまわり煩悶とする第一部。過去の緊迫する前線にぐいっと引き戻される第二部。クリストファーの思考もぎりぎりのラインを踏み止まったり、踏み越え気味になったり。左官級将校。緊張が一瞬で弛緩してしまう。こういう誤植は大罪。さて、彼の思考は徐々に散漫に低い方へ漂う。人間的な方へ。痛々しく混ざり合う軍務と私生活。充分に痛めつけられた私が求める唯一のものがハッピーエンドだけになったとき、第2024/11/02