内容説明
海上で急死した妻、その死を隠し通そうとする夫。窮地に現れた女性は救いの女神か、それとも破滅の使者か…軽妙洒脱な会話、ユーモラスな雰囲気、純文学の重厚さ。巨匠マイケル・イネスの持ち味が存分に発揮された未訳長編!
著者等紹介
イネス,マイケル[イネス,マイケル] [Innes,Michael]
1906‐1994。本名ジョン・イネス・マッキントッシュ・スチュワート。スコットランド、エディンバラ生まれ。オックスフォード大学を卒業後、英国のリーズ大学で講師として英文学を教え、オーストラリアのアデレード大学に赴任後は英文学教授として教鞭を執った。1936年、渡豪中の船上で書き上げたという「学長の死」で作家デビュー。46年にオーストラリアより帰国し、クイーンズ大学やオックスフォード大学で教授職を歴任する。54年刊行の短編集“Appleby Talking”(54)は「クイーンの定員」に選出された
福森典子[フクモリノリコ]
大阪生まれ。通算十年の海外生活を経て国際基督教大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
100
さすがマイケル・イネス。シニカルさと、それのもたらす笑いとの連続。大佐が最初にしてしまったことが引き起こす連鎖。なんでそっちを選ぶのだろう。そのせいで抱える懸念が次から次へと。解決しようとしてつく嘘と、その無益さ。間違えたことをして、それを始末しようと走り続けるのに、問題は彼の走り去ったすぐ後におのずと解決しているために、始末しようとしたこと自体を始末しまくちゃいけなくなって、行き着く先は、fiasco! くわばらくわばら。パスポートと牛乳の配達依頼ノートとの酷似が、もうありえないほどおかしかった。2021/01/24
本木英朗
31
知的ではあるが無思慮で無計画な男が、妻の急死を隠そうとしてどんどん窮地に追い込まれていく様を描いた滑稽譚。男の心理や行動があまりに予想の右斜め下過ぎて、読者は常にツッコミ役の立場に回ることになる。周りの登場人物も基本的に俗物だらけで、男と彼らの絡みがイネス一流の皮肉なセンスで彩られることで、笑いと混迷がより深まっていく。作中作的な要素がプロットと乖離することなく組み込まれているのも、作者の技量の冴えを示すものだ。結末は想像しやすいとはいえ、これしかないという形に収まっているため、大いに満足できた。2017/04/14
本木英朗
20
英国の本格ミステリ作家のひとりである、マイケル・イネスの未発表長編である。俺は2017年4月に一度読んでいた。海上で急死した妻。その死を隠し通そうとする夫。窮地に現れた女性は、救いの女神化、破滅の死者か……?という話である。妻を含めて誰も死んではいないけれど、それでもフォリオットにとっては怖いのよねえ。果たして真相や如何に!というところだろう。超面白かったです、はい。2021/09/06
J・P・フリーマン
5
ヨットの上で急死した妻を海に投げ捨てたペティケート大佐。小説家の妻の稼ぎで暮らしていた彼は、妻がいなくなると生活に困ることに気づき、彼女が生きていると見せかけようと策を弄する。自分では頭脳明晰と称している割には、妻がいなくなったことをうまく繕えず、行く先々で焦るダメっぷり。おまけにあらぬ疑いまでかけられて恐喝される大ピンチに。後半になると避けようのない問題が次々出てきて、それを打開するために取った行動がとんでもない結果をもたらします。ペティケート大佐の窮地を笑うのが楽しめる読み方ではないでしょうか。2017/05/19
nightowl
4
ロマンス小説作家がヨットの上で突然死した。元陸軍医で現在ヒモ(おまけに散財家)の夫は大弱り。継続的財源が欲しい...遺体を海に投げ捨て、書きかけの原稿を引き継ごうとする。彼の目論見は成功するのか?「太陽がいっぱい」を思わせる状況を情けなき中年男性でやるとこうなりました、な作品。お高くとまった文学趣味も控え目で、ユーモアを楽しく読めた。今回かなり久々にイネスへ挑戦したけれど、ミステリを書いたイーヴリン・ウォーという印象の下読めばいいのかもしれない。 2017/05/20