内容説明
木々高太郎に師事した文学派の紅一点、戦後女流作家第一号の代表作『鯉沼家の悲劇』初版完全復刻。
著者等紹介
宮野村子[ミヤノムラコ]
1917(大6)年、新潟生まれ。本名・津野コウ。実践女専(実践女子大学)国文科中退。38(昭13)年、紅生姜子名義で『シュピオ』に「柿の木」を発表。同誌編集人だった木々高太郎に師事する。戦時中は大連に暮らし、戦後、日本に引き揚げてから本格的な執筆活動を開始。49年、江戸川乱歩、木々高太郎両氏の推薦とともに『宝石』に一挙掲載された中編『鯉沼家の悲劇』(宮野叢子名義)で注目を集める。56年から村子と改名。90(平2)年、肺ガンのため死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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geshi
23
一読して文章の上手さが分かる。人間の心の奥底の言葉にならないものを言葉にする心理描写があり、文学と探偵小説のギリギリの交錯に屹立している。『鯉沼家の悲劇』は鯉沼家のもつ雰囲気を読者に染み渡らせ、愛しあい憎悪しあう人間を描き、一つの家の終結へと導く。『柿の木』の心に迫って来るサダの負う悲しみの深さ。『黒い影』の姉妹が互いに憎しみ合いながらそれを表に出さない捻じれ。もしかしたらこの作者は探偵小説としての枠が無い方が良かったのかもと思うほど。2015/03/26
有理数
15
な、なんでこんなにすごい作家が叢書でしか読めないの……! 最高、ものっすごく素晴らしい。人間がそこにいて、誰かと誰かの交流の中で生まれ出でる犯罪、まさしく人間と犯罪を堅実な心理描写で練り上げた作品ばかり。圧巻。いや、ほんと、なんで文庫になったりしてないんだろう。宮野村子は「文学としての探偵小説」を志したようですが、小さな挿話やエピソードひとつとってもドラマチックなのに、人工物くささがまったくない。語彙も豊富だし一つのお話のエンディングも毎度見事すぎる。読み物として面白い。 (続く)2014/10/19
シガー&シュガー
11
入手が難しかったことも手伝ってか学生時代に出会った鯉沼家はひたすら美しく特別な印象を残した。再読してみて、旧家の雰囲気と人物を描くことを誠実に両立させていることに惹かれ、もっと時間と頁を割いた形で読みたかったと思った…けど短編の良さにニンマリ。「黒い影」が個人的ベストで、一対一でねじれていく姉妹の高まり方がもはや耽美一歩手前。「柿の木」では少しぬるさを感じたけれどとことん人の気持ちを描いていくべき人で、それが欠けると「薔薇の処女」みたいな嫌味を残す上品さにとどまってしまうのかもと思ったり。Ⅱは少し置こう。2017/11/10
Kouro-hou
9
「鯉沼家の悲劇」で興味を持ったので読んでみました。さすが文学派という事で文章がうまく、雰囲気づくりが巧み。特に家族の愛憎劇がいい感じです。探偵小説として最後まとめに入るとアレレな所はあるけれど、忘れ去ってしまうにはあまりに惜しい人です。 「鯉沼家…」は作品はできてて清書するだけです、と嘘をついて自分を追込み締め切り間際に一気に書き上げるというデストロイな手法を試したらしく、っておいw その一方で「柿の木」初出版と改訂版なんてものも収録されていて、やはり改訂版の方が良いのでいろいろと惜しいなあとも思えたり。2014/01/11
水生クレイモア
4
「八番目の男」・「若き正義」・「匂ひのある夢」・「薔薇の処女」が個人的ベストです。2015/02/12