内容説明
吹き荒ぶ波と風、ドイツの北海沿岸の村で古い習慣と闘い堤内地を造るハウケ。英雄である彼とその家族におとずれる運命とは…。「白馬の騎手」をめぐって民間伝承と緻密なリアリズムで描かれた物語が絡み合う不朽の名作。
著者等紹介
シュトルム,テオドール[シュトルム,テオドール][Storm,Theodor]
1817年フーズム―1888年ハーデマルシェン。ドイツの詩人・小説家
高橋文子[タカハシフミコ]
横浜生まれ。翻訳家。ゲーテ・インスティテュート東京および上智大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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umeko
6
「訳者あとがき」にも、優れた文学作品には色々な読み方ができるといったようなことが書いてありましたが、まさにその通りです。一人の人間には様々な面があり、矛盾を含みながらも、一人の人間として成立している不思議を感じます。主人公ハウケは、果たして偉人なのか、怠惰が招いた悲劇の人物なのか、誰の理解も得られない孤独の人物なのかと、読後に振り返るだけでも多くの表情を見せる物語でした。2012/11/26
きゅー
5
本業は弁護士であったシュトルムによる遺作。彼の故郷は北海に面した小さな町であり、干潮と満潮の差が激しいために堤防が築かれていた。その実体験として味わった洪水の恐怖が、本作には色濃く反映されているのだろう。 『白馬の騎手』という幻想的なタイトルではあるが、村社会での金が絡んだ怨みや妬みなど実に現実的な描写が続く。このあたりは、弁護士としての彼の本業で培った知識と経験が描かれているのかもしれないが、なんだか寒々しく感じた。ファンタジー、あるいはオカルト的物語かと思って読み始めぶん、意外に思われた。2012/05/20
tieckP(ティークP)
2
シュトルムは「みずうみ」が有名ながら、ドイツで見たところではこの作品も同レベルに評価されているようだったので読んでみた。それは圧巻だった。正直な話、小説は筋が気に入らないと心から評価することはできないと思っていたけれど、この作品の文体、描写力、また幻想にオカルト性まで取り込みながら人間の真実を切り取った観察力、語りまわし、どこを取っても完璧な小説と言わざるを得ず、結果として、水しぶきで終始息苦しく先に黒雲がかかった展開でも読み切るのを神聖な義務と感じるほどだった。晩年でなければ書けない、重く誠実な作品。2016/06/07