出版社内容情報
私たちは弱い。だから、でも、手をつなぐ。
死ぬ人も……いるんだろう、当然。
見てください。来てください。
神様が本当に居るなら、見て、来て、何を思うだろう。
何にもすがれず、生きることを少しずつ諦める人たちを助けてあげようとするんだろうか。
非力な腕の精一杯で。
ウラミ放送局での仕事を得たフーカは特区での生活に徐々に馴染んでいく。
しかし、隣人たちに寄り添うほどに見えてくる「現実」は、フーカに“ある迷い”をもたらし……
貧困、差別、格差をめぐる癒しと革命の物語。
■作品解説:ハリジャンぴらの(社会福祉士・精神保健福祉士/青木ヶ原樹海探索者) ※トーチwebで全文公開
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ささやか@ケチャップマン
9
サダカちゃんの体を洗うためにお風呂に入って、制服着て散歩するあたりが非常に美しく、私はここをWebで読んで買うのを決めた。そしてサイブクがリストカットしてにいなめ荘のメンバーが揺れているところで、フーカがサダカに対して、私はここを出ていかないと答えたシーンが、人間のやさしさと弱さと愚かさを全てないまぜにしたような不穏なシーンでびっくりしてしまった。すごい作品だ。2022/08/20
よいおいこらしょ
6
持たざる人が生きるための思想を練り上げ、神話にまで昇華させる文化人類学的思索が凄かった。プリミティブで、力強さを持つ神話はこの世界でも十分通用する、私はそう信じている。2巻末ではマントラアーヤの人々と踊る時、マントラアーヤの無数の住人と手を繋いだような錯覚を持つ。これは三島由紀夫も「太陽と鉄」で求め続けていた、世界と調和する感覚そのものだった。マントラアーヤの歪ながらも美しい光景に感動した2022/12/25
プロムナード
4
1〜2巻は一気読みすべき。マントラアーヤの人間関係が、フーカをひとつの起点に編みなおされていく息遣いに心をわしづかみにされる。ふだん私が基本的に「見ないことにしている」心のある部分にそっと触れてくる。読んでいてどこから自分の涙がやってくるのかよくわからないのですが、そこにはたぶん、このような世界で生きていかなくてはいけないことへの哀しみと怒りがある。2022/08/09
aof
3
「持ってないものはあげられない」って言葉が響いた。 私はいつも持ってないものをあげようとしてしまうけど、それは何をしようとしてるんだろうと考え込んでしまった。 あと「よすが」っていい言葉だな。そういうものをつないで生きてけてる気もする。2023/06/27
笠
3
4 フーカが朗読という社会的役割を得て、特区(マントラアーヤ)での生活に馴染んできたところで、にいなめ荘の住民の掘り下げに入る。トランスジェンダーのサダカ、童貞こじらせてインセル気味のサイブク、親に捨てられて居場所がないことが心の傷になっているトウタ。舞台設定こそフィクショナルだけどフーカも含めて一人ひとりの苦しみは限りなくリアルで、そのまま現代劇にしても十分成立する読み応えがある。だからこそ、単に生き辛さを描くだけならノイズになりかねない設定にした狙いが気になる。次巻も楽しみ。2023/01/13