内容説明
詩人の感性をもつ歴史家は稀であり、その感性から出発して、これを実証的に追究し、歴史的真理と人間的真実とを究明しようという歴史家はさらに稀である。著者は、東アジア近代史を対象とし、この感性から出発して、農民・職人の日々の労働にも似た、たゆまぬ研究を経て、思索に思索を重ね、学術論文・文章を書き上げる。こうして書かれたものは、いずれも珠玉である。本書は、主として歴史学方法論にかかわるわずか数篇を収めるに過ぎないが、心ある読者は、その根底に、戦争体験を踏まえた深い思索と思想とをもつ厳密な学問が、かくも美しいものか、一種の学問美を感得することができるであろう。
目次
序章 歴史学的なものの考え方―歴史事実の認識と評価
第1章 中国近代社会経済史の方法―論文の出来るまで
第2章 近代日本と東アジア―清仏戦争から日清戦争まで
第3章 アジア研究における感性と論理
第4章 文学の思想性と歴史を視る眼と―アジア史の認識に向けて
終章 戦争体験と歴史意識―「学徒出陣」という言葉について