内容説明
ヴァイオリニストの夫、そして夫の先妻と若い愛人。息子とその恋人―誰よりも美しい妻を中心に愛の輪舞が始まる。恍惚と不安、愛と孤独のあいだをゆるやかに。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961年東京生まれ。89年、「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞を受賞。2004年『潤一』(マガジンハウス)で島清恋愛文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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エンブレムT
47
息子は、誰かに恋をしている。夫もまた、誰かに恋をしている。主人公である美貌の妻・園子をはじめ、共感出来る登場人物は一切登場しないのだけれど、ページを捲る手が止まりませんでした。・・・物語はあくまでも上品に、ドロドロとした世界に突入する一歩手前を忍び足で進んでいきます。破滅が待っているとしか思えない不穏さを孕んだ恐さは、読み進めるにつれ、不幸な生贄を待ちわびるような歪んだ期待感にすり替わっていきました。・・・描かれているのは『誰よりも美しい妻』の内包する静かなる狂気。シンと心が冷えていくような読後感でした。2011/09/01
竹園和明
30
相変わらず水のようにサラサラした作風。名作『だりや荘』に似た空気の作品です。美しい妻である園子は、夫惣介の勝手気ままな行いをどこまでも許容している。毎日がそれこそ水のように流れ、どんな出来事も事件にはならない。また夫の惣介は人とのつながりや思慕といったものを知らず生きている困ったナチュラルさ。この淡白な夫婦は、とても幸福とは言えないのでは?。それにしても井上荒野、イメージを喚起させるたった1センテンスの表現が素晴らしく巧い。そして決定打を打たない文章の連続は、男を魅了する美しい女のように妖しげだ。2016/05/14
橘
29
さらさらと水のように読み終わった作品でした。誰よりも美しい妻は、きっと幸福で不幸。惣介はどれだけ浮気をしても、妻の園子の元へと戻ってくる、その関係はとても渇いたものに感じられました。何かが起こりそうで何も起こらない、その空気が不思議でしたが嫌ではありません。江國香織さんの「がらくた」を思い出しました。2016/05/22
choco
18
夫の浮気を見て見ぬふりをする妻。思春期を迎える息子。歳の離れた若く美人な妻がいてもなお、歳の離れた若い娘と浮気を重ねる夫。しかし、なーんか後味がイマイチ。絶対的な安心感から信じて疑わない世界には、不安や焦りなどないのだろう。イライラする。もっと人間らしく生きたいと願う。2014/09/22
犬こ
16
顔も美しく、料理も上手で、夫の度重なる浮気も甲斐性があり、見て見ぬふり。こんな完璧な女性がいるのでしょうか。と、読み終わった後に感じるくらいナチュラルな文章で読みやすく、すっと読めました。なかなかいい雰囲気のある小説でした。2015/11/24