内容説明
『和漢比較文学論考』といういかにもことごとしい書名を付けることにいささかのためらいがないではない。内容は雑文の寄せ集めである。「在原」の二文字の意味することについて書いたものから、『万葉集』『古今和歌集』等の歌に関するもの、『伊勢物語』『大和物語』『竹取物語』『源氏物語』等の歌物語・作り物語に関するもの、『枕草子』『大鏡』『江談抄』等の随筆・歴史物語・説話に関するものまで、さまざまである。そのときどきの関心によって書いた、「漢」との関わりがかろうじて認められるものを集めたにすぎない。だから全体が体系的なものになっているわけではないのだが、考えてきたことに方向性らしきものがまったくないということでもない。そのひとつ、書名に冠した「和漢比較」について言えば、小著に収めたものは、和漢の「対比」研究ではなく、いわゆる「影響」研究(狭義の「影響」ではなく、「引用」「影響」「材源」(素材)等さまざまな問題を対象とするものだが)を意図したものが多い。軸足を「和」において、「漢」が日本文芸あるいはその中の個々の作品の成立・形成にどのように関わっているのか、そしてそこからなにが見えてくるのか、ということを明らかにしたかったのである。
目次
賜姓在原朝臣
林のある風景―漢と和と
「みやび」の構造についての試論―石川女郎と大伴田主の贈報歌を中心に
懐恋反側―相聞試論
思子等歌と恋夫君歌―食不甘味 寝不安席
和歌と詩と楽と―『古今和歌集』真名序の措辞をめぐって
『伊勢物語』の成立と『万葉集』―巻十六左注との関係を中心に
『伊勢物語』初段考―物語のはじまりと唐代伝奇
『伊勢物語』二十三段と李白「長干行」
『大和物語』葦刈章段の形成―『法華経』信解品との関係を中心に〔ほか〕
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