出版社内容情報
平安期の文人、小野篁を主人公に、大人への入り口でとまどう一人の少年が、再び生きてゆく力をとりもどすまでの姿をさわやかに描く。
内容説明
小野篁って、だれ?昼間は京の都のえらいお役人にして有名な漢詩人、夜は井戸からあの世へ通い、地獄でえんま大王の右うでとして働いたという不思議な伝説を持つ、平安初期に実在した人物。第3回児童文学ファンタジー大賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
岡部敬史/おかべたかし
107
傑作でした。素晴らしかった。以前、評判を聞き、息子に勧めていたのだけど、改めて手にとってみたらあまりによくて驚いた。小野篁があの世と現世を行き来していた伝承を元に、当時の匂いと彼の成長、鬼と娘との交流を描いた物語。何より篁が知見を広げることで、人間的にたくましくなる様の描きっぷりが見事。「児童文学」というカテゴリーに収まるものでなく、日本を代表する小説だと思います。すごい。2020/02/08
さつき
61
少年時代の小野篁の物語。異母妹を事故で亡くした悲しみからか、冥界に入りこんでしまいます。亡くなった父が人夫として架橋に加わったため、その橋から離れない少女阿子那。阿子那のために人として生きたいと願う鬼、非天丸。それぞれの寂しさ悲しみが胸に刺さります。自分の悲しみだけにとらわれていた篁が阿子那や非天丸との関わりを通して成長していく。派手さはありませんが、静かに心を動かされる作品でした。2018/03/05
東谷くまみ
40
なんて書けばこの本の良さを伝えられるんだろう。貴族の息子、小野篁。何不自由ない暮らしを送っていたが異母妹の死という辛い経験を背負い様々な人や異界の者と出会うことで大人へと成長していくという話なのだけれども。抱えて生きていくという難しさ、父と息子のすれ違い、10代の心の揺れ動く様。どれも響いて頁はどんどん進む。その中でも阿子那と非天丸の絆が本当に素晴らしい。外見など全く気にせずひたすら非天丸の心の純粋さを信じ寄り添う阿子那。阿子那の信頼に応えようと鬼の生き方そのものを封印して生活する非天丸。→2020/06/19
chiaki
40
これはッ!ドンピシャ好きすぎてなかなか感想が書けず!もっと早く出逢いたかったけれど大人になったからこそ、よりこの世界を堪能できたのかも。大切な異母妹を亡くしてしまい、自暴自棄になっていた篁の元に現れたのが孤児・阿子那と片角を取られた鬼の非天丸、そして冥界の番人坂上田村麻呂。この3人との出逢いを通して、篁の成長が描かれる。非天丸の鬼である身ゆえの哀しさ、あるいは鬼でもなく人でもないからこその心の葛藤、そのもどかしさを唯一繋ぎ止める阿子那という存在…鬼・非天丸の心情が丁寧に描かれ涙してしまう。また読みたい!!2020/01/28
とよぽん
39
名作だ。題名と表紙は、地味というかインパクトが今一つだが、これは素晴らしい作品だ。平安時代、小野篁、京の都という設定の上に少年の成長譚を展開する。文体や描写には、気品と迫力、さらに心情表現の繊細さをあわせ持つ、薫り高い文学作品ではないか! 福音館書店は小学上級から対象、としているが、私が担当している中3の生徒たちに、今こそ勧めたい一冊だと思った。2018/09/20