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内容説明
漆黒のベンツが1台、豹のようにリラの横を通りすぎた。ハンドルを握る男の顔は気品にあふれ、瞳の中になんとも言えない危険な色がにじんでいる。バイクに乗ったリラは信号のところでベンツを追い越し、いつものようにシーフード・レストランに立ち寄った。1年前までマネージャーをしていたこの店に、今は手作りのケーキを卸している。その日、厨房では騒ぎが持ちあがっていた。新しいオーナーが経営立て直しのために人員整理をしたらしい。「私もお払い箱かしら?」不安げに言うリラの背後で、フランス語なまりの低い声がした。「そんなことはないですよ」あのベンツの男―彼がオーナーのサムエル・パッシャー。「手伝ってほしいことがあるのですが、今夜お会いできますか?」リラには申し出を断る理由がなかった。サムエルの発散する危険な匂いの正体をつきとめるよりも、優雅な物腰や絹のように柔らかな声に酔っていたかったから。