内容説明
2013年、イギリスである書物が100年以上の年月をかけて完成した。『中世ラテン語辞書』である。話し言葉としては既に死んでいる言葉の辞書をつくったところでさほどの需要も見込めず、絶対にもうけにはならない。誰がそんな活動に資金を提供したのか?「言葉集め」をしたボランティアたちにはどんな動機があったのか?使うあてもなく、完成するかもわからない書物に時間と精力を注ぎ込んだ人たちの営みから、人間の「働く意味」を追ったノンフィクション。
目次
第1章 羊皮紙のインク
第2章 暗号解読器の部品
第3章 コスト削減圧力との戦い
第4章 ラテン語の重要性
第5章 時代的背景
第6章 学士院の威信をかけて
第7章 偉人、奇人、狂人
第8章 ケルト文献プロジェクト
第9章 日本社会と辞書
第10章 辞書の完成
著者等紹介
小倉孝保[オグラタカヤス]
1964年滋賀県長浜市生まれ。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長を経て編集編成局次長。14年、日本人として初めて英外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サアベドラ
29
イギリスで約100年かかって完成した中世ラテン語辞典を巡るノンフィクション。著者は新聞記者。2019年刊。歴史畑の人間からすると、古い言葉の辞書を何世代もかけて編纂・出版することは特に不思議とも思わないのだが、日々締切に追われる新聞記者の目には奇異に映ったらしい。著者が専門外の人だからか、あまり深く踏み込んでいなくて残念。その割にOEDや諸橋大漢和など本筋に関係ないところによく話が飛ぶ。出版社の都合か、いちいち現代日本批判に話を絡めてきて、別にそんなのを読みたいわけじゃないのになあと思ったりもした。2019/06/09
ykshzk(虎猫図案房)
25
イギリスで1913に始まり2023に完成した中世ラテン語辞書計画。完成は見通せず利益も少ないのに人々が辞書作りに協力した原動力は、ラテン語は自分の国の全てを深く学ぶための下支えであり、後世に残すべきという強い信念。そして何よりその作業が好きだから。手書きの言葉カードを集めて編纂する作業の蓄積が生むのは民族の歴史と文化の堆積。ラテン語辞書は国が助成金を出した。A.ビナード氏はアイヌ語が絶滅すれば日本語が危機になるということに気づくべきとも。実用知に対する過剰な期待と人文知に対する無理解を嘆くのは河野通和氏。2024/04/24
なおきち
15
英国学士院によって100年の歳月をかけて編まれ、2013年に完成した中世ラテン語辞書とその編集に携わった人々の声をまとめたルポルタージュ。口語としては既に死語であり、需要の低い中世ラテン語の辞書を作ることは、経済合理性や市場原理が重んじられる現代ではまず考えられないことだろう。あらゆるものを金銭的な価値で測り、経済豊かさを追求することに世界は漫然と突き動かされている。人は経済の流れから逃れることはできないかもしれない。それでも世界には経済的価値では測ることができないものがあり、それに生涯を捧げる人達がいる2020/07/02
チェアー
15
単にラテン語だけでも驚くのに、さらに中世ラテン語の辞書をつくるなんて。しかも100年もかけて。ここには言葉や文化がどういうものかという認識の問題がある。平たく書けば、お金で代えられない価値を認めるかどうかた。英国は100年かけて辞書を作り、かたや日本は大学を金儲けの機関にしてしまった。中世ラテン語の辞書の話という枠を越えて、文化とは何か、後世に引き継ぐとはどういうことかを考えさせられた。2019/04/25
ムンムン
8
「お金のために辞書をつくったのではないということです」 2013年、イギリスで『中世ラテン語辞書』が完成した。作成に要した期間は丸100年。たくさんのボランティアや編集者が参画した。彼らはそれぞれに熱い思いを持って仕事に臨んだ。 現代の日本社会は経済合理性をなにより重視しがちだ。彼らの働きぶりは、それでは測れない大切な価値の存在を教えてくれる。イギリスの辞書づくりを通して、日本社会と働き方に疑問を投げかける名著である。2019/08/14
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