内容説明
戦火によって跡かたもなく消え去ってしまった、わがはらからのふるさと。人びとはこの街を「嫌の坂」と呼んだが、赤貧の中で、ジロー小年は逞しく、自由で、底抜けに明るかった。そして、喧嘩っぱやい札ツキの悪ガキも、いつしか年上のクミコに、異性の強烈な匂いを感じるようになった。コラムに育った一社会派ジャーナリストが描く怒濤の小年期の自画像。
目次
ハギワラの受難
わが町・岩の坂
赤犬を食った男たち
記録のなかの岩の坂
晩年の宿場町
「番場の忠太郎」
わが母の出自
東条のバカヤロー
竹馬と石福とハギワラ
天女の舞いおりた葬式〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
22
スラムやら貧民窟やら魔窟などの文字にどうしても魅かれてしまう。覗いてはいけないような、覗いたらその魅力にやられてしまいそうな、背徳的な響きがそこにはある。そんな私の嗜好で手に取ったこの本。鬱屈としているかと思ったら、真反対。あっけらかんと明るい。スラムという響きに何かしら後ろめたい気持ちを持ってしまうのは、完全にこちら側の人間だからなのだ。その中心で暮らす人々は助け合い、笑い合い、楽しく生きている。彼らの生活を全うしている。先入観のみであーだーこーだ言うのが「ほんとうにズレている」ことを教えてくれる一冊。2015/11/22
リードシクティス
4
東京・板橋、岩の坂の貧民窟に生まれ育った著者が、戦中戦後の少年時代を振り返る。貧民窟なんてものがたかだか50~60年前の日本に存在したということに驚いた。西原理恵子の『ぼくんち』をさらに濃くしたような世界がそこにはあり、それがマンガではなく現実の話だということに衝撃を受ける。赤犬を殺して食う男たち、私刑で殺された白痴の少年、パイパンガールに身を落とした少女、ヒロポン中毒の末に精神病院入りした青年など、過酷なエピソードが続くが、著者にとってそこはふるさとであり、そのまなざしは暖かい。2013/01/05