内容説明
「中世は武士、そして鎌倉新仏教の時代である」。こうした教科書で知る歴史像は、決して正しいものではなかった。強靭な論理力と斬新な学説で、「武士階級発展史観」にもとづく中世史理解へ鋭く修正を迫り、中世史の構図を一変させた黒田史学。「顕密体制論の立場」「「院政期」の表象」「中世における武勇と安穏」「「中世」の意味」など、その精髄を示す論考を収めた不朽の名著。
目次
1(顕密体制論の立場―中世思想史研究の一視点;王法と仏法;愚管抄における政治と歴史認識;日本宗教史上の「神道」)
2(「院政期」の表象;軍記物語と武士団;太平記の人間形象)
3(楠木正成の死;歴史への悪党の登場;変革期の意識と思想;中世における武勇と安穏)
4(「中世」の意味―社会構成史的考察を中心に;思想史の方法―研究史からなにを学ぶか)
著者等紹介
黒田俊雄[クロダトシオ]
1926年富山県に生まれる。1948年京都大学文学部史学科卒業。1960年神戸大学教育学部助教授を経たのち、大阪大学教授、大谷大学教授を歴任。1993年歿(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
14
権門体制論で知られる著者の論集。解説で「武士中心史観からの脱却」と呼ばれているように、所謂「在地領主制」への批判や、中世における顕密仏教の影響力の大きさなど著者の主張のエッセンスが小品ながら詰まった内容である。学説史についての論が多く、著者の中世史に対する問題提起やその視点の先見性に驚かせられる部分も多い。もちろん実証的な細かいところでは古いなと感じる部分もあるが、それでも本書の持つ力強さは一読の価値があるのではと思う。2023/01/20
chang_ume
11
「権門体制論」と「顕密体制論」の副読本的内容。「在地領主論」(石母田正)への批判として、唯物史観からの脱却志向を見せつつ、権門間の相互依存的な体制を描き出す。同時に、古代仏教と鎌倉新仏教の対立を見る立場に対しては、古代中世はあくまで密教を基軸とした宗教体制と批判を加える。近年の「戦国仏教論」への発展も含めて意義深い論説と思う。中世史と宗教史において、ほとんどパラダイム転換といえるほどのインパクトを未だ感じる。一貫して、「近代の神話からの解放」を訴えるところは、21世紀現在も効力を保ち続けているだろう。2020/08/30
さとまる
8
黒田俊雄の論集……とまでは行かない程度の小論や講演の内容をとりまとめたもの。教科書的鎌倉新仏教理解を揺さぶる顕密体制論や軍記物語を読む上での立ち位置など興味深い論が多いが、その中でも「中世における武勇と安寧」が強く印象に残る。武士といえども根底にあるのは生活の安寧であり、それを守るために武勇を振るったにすぎないという考えは武士のイメージに新たな見方を投じている。2023/09/01
午睡
5
権門体制論で知られる黒田俊雄の小品集。タイトルにもなっている王法と仏法、愚管抄における政治と歴史意識、中世の意味、思想史の方法など13篇の論文が収められている。いずれの論文も短いながら重厚で、刺激的な論点を持ち、あだやおろそかには読み飛ばせない。 強靭な論理の力、ということがこの歴史家には枕詞のように言われるが、げにもむべなるかな。読んでいて、舌を巻く論理展開である。源平合戦における神器( 剣)の喪失と源氏勃興を表裏一体のものとして把握しようとする慈円の評価など、この一点を持ってしても並の歴史家ではない。2020/11/02
Ohe Hiroyuki
2
副題にあるとおり「中世史の構図」を明らかにしようとする著者の論集である。中世は、武士の時代であるというステレオタイプに異説を唱えている。▼本書が法蔵館文庫から出ているように、本書の内容のいくらかは仏教の話である。鎌倉仏教といわれているものも、旧仏教(天台宗(顕)と真言宗(密))があるからこそものであると主張がなされる▼源実朝のあとの将軍は、公家出身であるし、そもそも将軍は君主ではなく、征夷大将軍であることを考えてみれば、ある意味著者の主張は至極真っ当である。中世を考えるために有用な一冊である。2023/06/09