内容説明
“近江聖人”は、人間もまた「生きる虫」にすぎないと考え、苦闘したのではないか?―近世前期を生きた中江藤樹(1608‐48)は道徳的な人格者として、儒学を門人・弟子たちに伝授した思想家として有名である。しかし、藤樹の“教示”“感化”は困難を極めた。藤樹といえども挫折と試行錯誤に明け暮れた「苦悩する教師」に他ならなかった。「陽明学」「教育」といった近代的枠組・制度では捉えきれない藤樹の思想を、その著作と書簡、門人たちの著述を詳細に読み込んで解明することにより、学問の着手や挫折の問題、志向を欠いた学習者への対処といった“学び”の根源的課題に迫り、思想史研究の実践と意義を考える。
目次
序論 中江藤樹を問い直す
第1章 問題の所在
第2章 「福善禍淫」の論理と「人と禽獣の弁別」
第3章 初学者に向けた教示の模索
第4章 二つの「持敬図」
第5章 『翁問答』から見る“教示”対象の顕在化
第6章 学習者に求める振る舞い―独学から議論へ
第7章 「慎独」の重視、あるいは「慎独」に挫ける「同志」たち
第8章 「立志」を“教示”することの問題
終章 中江藤樹の思想史的位置と藤樹後学たちのたたかい
補論1 藤樹書院と中江常省
補論2 淵岡山における「藤樹学」の自覚
補論3 会津藤樹学派の展開と“藤樹の教え”
結論 中江藤樹研究の現代的意義
著者等紹介
高橋恭寛[タカハシヤスヒロ]
1982年、岡山県生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(文学)。東日本国際大学准教授等を経て、多摩大学経営情報学部准教授。専攻、近世日本思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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