内容説明
荻生徂徠の高弟として、江戸後期の文芸界を主導した服部南郭の初の伝記研究。江戸時代最高の詩人であった南郭と文人・画家たちの交遊をあますところなく伝える、著者のライフワーク。
目次
文人の成立―服部南郭の前半生
服部南郭年譜考証
晩年の服部南郭
入江若水伝資料
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きさらぎ
5
南郭にあたるのは日野氏の小編「壺中の天」、疋田氏の伝記、そして本書で三作目。私見では、味わい深い読み物としては「壺中の天」がいいし、伝記としては疋田氏がまとまっていて、創作や何かで南郭について調査する「資料」としては、長大な年譜を有する本書が便利、という印象。漢詩も漢文も割と解説なしにポンと出てくるので学徒ならぬ身としてはちょいちょいスルーもしつつ通読した。様々な事実が次々に出て来て面白い本ではあるのだが、大部なだけに他2冊などでイメージを掴んでからかからないとやや読み通すのが辛いかもしれない。2015/11/06
のりたま
4
高岡から京へ出てきた服部家が和歌を通じて京都の社会に溶け込むには、大変な苦労があっただろう。その後南郭が江戸に出ることになるが、江戸は江戸で周りが武士だと町人の南郭は苦労したに違いなく、柳沢吉保に和歌で仕える自分のことを芸者と卑下している。南郭は和歌を捨てて漢詩人として有名になるが、同門の太宰春台も、いくら和歌が詠めても公家に下に見られるからと言って和歌を焼き捨てて漢詩に転向している。おそらく南郭にも同様の経緯があったのではないか。近世の身分制度から自由に文芸に遊べるのは和歌ではなく漢詩だったのだろう。2020/08/12
Sumichika3
1
岩波『文学』書評に評者の先生が「雅致を凝らした一冊」と記していたように、灰白色の紙質に服部南郭の落款をあしらった美しい函。本体は藍色。書店で一目見るなり触手誘われ、立ち読みするうち心吸い寄せられた。春台と並ぶ徂徠高弟の力作評伝。書き下ろしではなく論文集。南郭の係累や柳沢吉保のもとでの多彩な交遊などを考証。師なきあと蘐園学派は文学と経学に分岐していくといわれるが、南郭に代表される詩文の心に著者自身が想い寄せる筆が伝わる。南郭の諱である元喬に因んで私事を陳べる「あとがき」には絶句の他なく胸に迫るものがあった。
asukaclaesnagatosuki
0
岩波『文学』書評に評者の先生が「雅致を凝らした一冊」と記していたように、灰白色の紙質に服部南郭の落款をあしらった美しい函。本体は藍色。書店で一目見るなり触手誘われ、立ち読みするうち心吸い寄せられた。春台と並ぶ徂徠高弟の力作評伝。書き下ろしではなく論文集。南郭の係累や柳沢吉保のもとでの多彩な交遊などを考証。師なきあと蘐園学派は文学と経学に分岐していくといわれるが、南郭に代表される詩文の心に著者自身が想い寄せる筆が伝わる。南郭の諱である元喬に因んで私事を陳べる「あとがき」には絶句の他なく胸に迫るものがあった。2011/11/19