内容説明
荻生徂徠の登場により近世の思想界の様相は一変する。多勢の追随者とそれと同じくらいの反論を呼んだ徂徠学とはいったい何か。徂徠学の生んだ波紋に照明を当て、江戸思想を読み解く快著。
目次
1 荻生徂徠素描―「天」と「作為」の問題をめぐって
2 荻生徂徠の「学」―身体の了解と模倣・習熟・思慮の問題をめぐって
3 儒教的世界像の崩壊と太宰春台
4 太宰春台の「礼」への固執と同時代認識
5 海保青陵―その思惟構造
6 反徂徠学の人々とその主張
7 徂徠学の一波紋―「心法」論のゆくえと松宮観山
8 広瀬淡窓の敬天思想―徂徠を手がかりに
9 本居宣長における「心」と「型」―宣長論への助走
10 政治改革と徂徠以後の儒学思想
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
恋愛爆弾
12
荻生徂徠思想の超越論的な「天」と経験論的な「作為」の二重性が、前者では服部南郭や平野金華から少なからず影響を浮けた国学などに、後者では太宰春台が継承し具体化を試みて海保青陵などの引き継がれていくという流れを簡潔に知ることができる。徂徠思想にはたしかにアンビバレントがある。一方、徂徠思想がいまもなお注目されなければならないのは、ネームバリューではなく、その解き明かされた二重性が現在まで現実のままだからである。尚、読んだのは増補版ではないので本居宣長と松平定信はあまり出てこなかった。ざんねん。2024/11/16
きさらぎ
2
各章は既出の論文に加筆したものだが、「徂徠学」出現以降の江戸時代の思想世界を、徂徠学の「受容・反発・実践」などの視点から、幾人かの思想家を個別に検討した本。直接の弟子である春台、孫弟子の青陵、亀井親子に学んだ淡窓、宣長、選択的に取り入れた定信など。非常に情緒的な感想ながら、個人的に徂徠学は読んでどうも辛い気持ちになるので「春台の「礼」は情の問題を抱え込んだ儒教が儒教の思考枠組みを保全せんとしたぎりぎりの一線」という筆者の言に納得しつつ、徂徠学の体系の大きさ、裾野の広さに触れ、やや救われたような気分になった2015/05/25
ゐ氏/きたの
1
荻生徂徠の「学」のありかたと儒教の崩壊・経学としての儒"学"の発展を徂徠-春台-海保青陵の系譜に従って読み解いていく章がとても興味深かった。礼楽を体得するという形式主義(?)と内面の重視のこじれを習と思で乗り越える、ここに徂徠学崩壊の要因があるんじゃないかとなんとなーく思った。徂徠学の崩壊は、近世日本における儒教の崩壊であったのか、徂徠学を徂徠学たらしめる要因、徂徠学を儒学たらしめる要因について、詩文派側からのアプローチについても考えてみたい...2016/10/11