内容説明
人間の行動に鋭い洞察力をもち、小説の構成法にひときわ力をそそぐことによって、二〇世紀文学に多大な影響を与えたヘンリー・ジェイムズ。彼はリアリティと幽霊の間に想像力を介在させることによって己れの作品に一つの小説美学をうちたてた。本書は、日本で独自に編まれた名作集である。『H・ジェイムズ名作集』に「風景画家」を加えた改編書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
19
5短編を収める。ヘンリー・ジェイムズ独特の持って回った表現が、短編であるにもかかわらずいきなり物語に入り込むことを難しくしている面がある。解説によれば30数年の長い期間に書かれたものであり、最初期の『異常な病人』と『古い衣装のロマンス』はともかく、『ほんもの』以降の3篇はいずれも芸術を主題とし、彼らしい心理の綾を解きほぐしていくような点が特徴。『ほんもの』では画家が見出すモデルの価値の反転が皮肉たっぷりに描かれる。『知恵の木』では芸術家志望の若者が抱く、彫刻家の父の作品評価が、父の友人を通じて明らかに。2023/08/08
きりぱい
5
これはよかった。この間読んだ短篇集より面白い。特に「古い衣装のロマンス」「ほんもの」「知恵の木」がいい。姉妹の間で火花散る恋の結末、自分たちはいいモデルになるはずと優越意識を持ちつつどこか卑屈な紳士と夫人、彫刻家夫妻に自分だけが胸に秘めていたと思っていた真相が実は・・と、きまり悪さや不愉快さにうずうずして、早く早くとせいて読んでしまう。「風景画家」だけが他のように面白いとはいかなかったけれど、オチが!2012/04/06
HODGE
1
『ほんもの』は画家である語り手が上流階級を描いた小説の挿絵に二組のモデルを使う──「本物の」紳士淑女の夫婦とイタリアの行商人の青年と下層階級の娘を紳士淑女に見立てた「偽物の」モデルを。するとどうしても「偽物の」紳士淑女のほうが出来がよくなる。その絵は「偽物」がより「本物」らしくなる。「本物」と「偽物」の対決なのだが例によって独特の語りの操作によって読後に別の物語の存在を意識させる。そもそも小説という虚構の世界に登場する人物たちをイメージした挿絵のモデルについて論じるというのが複雑な操作なしにはありえない。2016/05/08
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