内容説明
舞台は〈嵐〉と呼ばれる大破壊の後の、はるか未来のアメリカ。そこではインディアンの末裔たちが過去の機械文明を失いながらも、一種の牧歌的ユートピア社会を形成していた。そうした集落の一つであるリトルビレアには、大小様々な部屋がさながら蜂の巣のように密集し、このは系、てのひら系、ほね系、といった系統に分かれた奇妙な一族が住んでいた。物語は〈しゃべる灯心草〉と呼ばれる少年の独白によって始められる。彼は少女を相手に、“聖人”になろうとして彷徨した自分の冒険譚を語り出すのであった。〈一日一度〉と呼ばれる美少女や、ドクター・ブーツと巨大な猫族の物語、そしてラピュタと呼ばれる天上都市と謎の水晶体の物語などなど…。本書は象徴と寓意に満ちた、アメリカのファンタシィ界の異才ジョン・クロウリーのSF代表作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ai
13
私たちにとって既視感があるもの、日常的なものが、その語彙を使わず物語に現れる。舞台は、文明が崩壊した遠未来。小説でしかできないこの表現で、読み手は主人公と一緒に世界を探る旅へ背中を押される。ちらちらと明かされる、遠い過去の出来事と並行して、主人公・灯心草の初恋や、物語る聖者への憧れが切なく、描かれる。ラストも切ない。そして、翻訳者・大森さんの本作への甘酸っぱい恋心が語られていて、ほっこりするわ。 2019/10/30
ettyan えっちゃん
8
意外と読みやすく、一日で一気に読了。 もっとも、だから、分かりやすい訳ではなく、人類が衰退したあとのイメージを楽しむ。 全く違うのだが、ヨコハマ紀行を思い出す。 そういえば以前、温かな小春日和をカリフォルニア出身の方にインディアンサマーデイって言うんだよねと聞いた事があるが、その言葉知らないと言われた、それから数人のアメリカ人に聞いて見てるのだが、一様に知らないと言われる。 エンジンサマーも意味が通じないのかな。 2021/03/13
アルビレオ@海峡の街
8
遠い未来のアメリカ、インディアンの末裔たち、天使たち(過去の人間)が残した機械文明の残骸を利用し生きる。あれ?どこかで読んだ設定。と思ったら、つい先日読んだル=グインのオールウェイズ・カミングホームに設定が似ている。内容は、しゃべる灯心草という名の少年が語る自らの物語。ラストを読んで、最初に戻ると切ない・・・。幻想系のSF作品です。2010/11/26
すけきよ
3
なんと言っても、題名が素晴らしい。聞いたことのない単語で、しかも未来なのに、どこかノスタルジーを感じさせる。そして、情景。靄のかかった冷たい空気、針葉樹や河といった北米の自然に飲み込まれた道路や建造物。一方、部屋が幾つもくっついてできているようなリトルビレアの暖かい集落。文明の崩壊の原因や〈連盟〉、〈聖人〉が何を差すのかは、もはや口承と化しているため、詳しくはわからない。でも、だからこそ、儚い美しさをたたえた作品。途中に出てくる、スライドをどんどん重ねていくシステムが、この作品を表しているような気がする。2005/12/06
スターライト
2
〈しゃべる灯心草〉と呼ばれる少年が、天使と呼ぶ少女に語る物語。第三次世界大戦後と思われるアメリカを舞台に、失われた機械文明の後、牧歌的なユートピア社会で育った主人公が、聖人になるために、はたまたワンスアデイという少女を求めて旅するストーリーは、どこまでもファンタジイ。ラピュタと呼ばれる天上都市からやってきた人物との会話で明かされる全貌が、SF風の味付けを加えている。2010/09/13