内容説明
昭和初期の時代のうねりなかで、知的幻想趣味徹底した快楽主義的生活との交錯によって、特自のボヘミヤニズムを生みだし、夭折した作家牧野信一。その真骨頂をなす「吊籠と月光と」「ゼーロン」「バラルダ物語」など傑作短篇小説9篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マサキ
6
すばらしい!こんな作家が存在していたとは、不勉強を恥じるとともに出会いに感謝。「吊籠と月光」は中でも秀逸。想像と幻想、そして何より目を疑うような振り切れたユーモア。本当に?と何度もページを繰り直して確認して読みました。いわゆるギリシャ牧野と言われる時期を集めた短編集で玉石混淆かもしれないですが、それでも余りある魅力。前、後期も当たってみます。町田康、後藤明生に取りつかれて、未読であればぜひ。2019/05/30
rinakko
3
うーむ、面白かった。いささか無頼な私小説だな…と思いつつ読み進めていくと、少しずつ景色がぐんにゃりと歪んで夢か幻みたような怪しかる様相を呈しだす。その“ぐんにゃり”加減が堪らなかった。己自身をA・B・Cと三個の個性に分けてみて、三人(!)を旅に送り出してしまう“僕”の話「吊籠と月光と」。旱魃に見舞われた村の水車小屋での奮闘を描く表題作。言うことを聞かない図太く頑迷な驢馬の耳腔に、往時の夢を諄々と囁き、自作のBallad(うまおいうた)をホメロス調で朗吟しながら必死で掻きくどく…「ゼーロン」。など。2012/05/09