内容説明
それぞれに戦争の翳をひきずりながらむかえた、3人の男の死を優しくみつめた表題作「命三つ」、初老の男と癌で逝った女との交情を、形見のテープから鮮かにとらえた「贈られた声」など、平穏な日々に流れこむ様々な死を澄んだ筆致で描く最新作品集!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
35
☆☆☆☆☆ 晩年に差し掛かった作家の渋い味わいの私小説風な短篇集。文章の端正な佇まいが良い。病院の院長であった父(妾の子だったので一緒に暮らしたことはない)が馴染の床屋に与えた形見の帽子「遺品」。死んだ3人の戦友(うち一人は深田久彌)について語る「命三つ」。バーのママが波乱の人生について4巻のテープに語り残した「贈られた声」。友人の画家がセザンヌを超えたと話したのを笑ったことから絶交に至る「花火」。葉山嘉樹の『海に生くる人々』をめぐる「海の文学碑」。裸婦モデルとして生きた女との関わりを想起する「立像」。2023/01/15