感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
21
ハン・ガンの「別れを告げない」と本書の「冥福を祈るな」は互いに響き合っている。前者が済州島4・3蜂起、後者が光州事件、いずれも国家権力による暴力を、決して過去のこととして片付けるのではなく、それを絶えず思い返しとらえ返すことなしには前に進めないものとして記憶し続けること。本書の別の詩での「行った年にこそ目醒めなさい」という一行も、過去に目覚め続けることへの決意が見える。たとえば日本で、同じような国家による暴力、足尾や水俣や沖縄やアイヌや福島について、我々はどれだけ、冥福を祈らずに目覚めているだろうか2024/06/16
松本直哉
21
冥福を祈るな、と詩人は言う。冤鬼となって国をあふれよ、と。トマトのように圧し潰された死、裂かれた腹、抉られた喉の無念を弔ってどこかに片付けてやがて忘れる自己欺瞞への反撥。死してなお恨む死者たちを代弁するかのような厳しく激しい言葉。故郷の光州を襲う悲劇を異郷の日本で聞く焦燥と怒りは隔てられた空間を超えて不条理の死者と一体化し、時間によって融解されることを拒む。「平穏さだけが秩序であるのなら/秩序はもはや萎縮でしかない」秩序へと回収されることない石つぶてのような言葉の断片。2016/12/15