感想・レビュー
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Major
35
能の題目としては、決して《幽玄の美》を醸し出すような舞台ではない。しかし、先ず何よりも、前シテの安達ケ原の女の自分自身の存在そのものと、それを生き長らえることに対する一種の諦念に満ちた語りに僕達は惹き込まれる。人生経験を重ねた(四十路半ばあたりだろうか)女の面は深い悲哀を湛えており、語りとあの表情に詩情をそそられる。その面がわずかに僕達観客に向くとき、思わず自分の心奥にある罪のようなものを彼女に凝視されているような感覚に襲われる。この安達ケ原を初めて能楽堂で鑑賞した時に能面の恐ろしさと魔力を、僕は知った。2020/03/24