出版社内容情報
ナビゲーション能力は、長い進化を通して培われた人間の根源的な力。
私たちは人類史上初めて、その力を手放そうとしている。そこにはどのような代償が伴うのか――
心理・脳・社会など多彩な論点であぶり出す、空間認知の驚きの真実。
ナビゲーション能力は、空間を把握する以外にも、「出来事を記憶し思い出す」「人間関係を理解する」「抽象的な概念を操る」「良好なメンタルヘルスを保つ」「認知症を防ぐ」など、さまざまな働きにかかわっている。
GPSや現代的な生活によって、方向や場所を把握する必要のなくなった今、その力は急速に衰えはじめている。
人間に備わるナビゲーション能力が、人を人たらしめているものだとしたら、それを失うとどうなるのだろうか――
その危機感を柱に、人と場所、心と空間の関係を、心理学、人類学、神経科学、社会学などから探る。
移動が制限され空間認知力をさらに使わなくなっている今、タイムリーな一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kan
23
面白かった。空間認知力やナビゲーション能力は、幼少期にどれだけ自由にうろつき回れたかという行動環境や経験と深い関係があり、(特にサイエンス分野の)ロールモデルの有無やジェンダー、自己認識に影響を受け、備わった能力を使わずGPSに判断を任せていると鈍るというのは想定内だが、もっと大きな意味での空間認知にも影響を与えることに驚いた。アルツハイマーの進行は認識力の低下だということもそうだが、空間認知とは社会的な関係性や抽象的な思考も含めた大きな認知地図を描く能力だという指摘に、脳のしくみの複雑性を垣間見た。2024/02/23
スプリント
12
人間のもつ空間認知能力の役割を解き明かし、 GPSなど外部ツールによるアシスタントで本来の空間認知能力が弱まりつつある現在と未来への警鐘を論じている。 たしかにカーナビやスマホのGPSを駆使することで頭の中の地図や経験知による蓄積は衰えている気がする。2024/05/06
owlsoul
7
方向音痴がコンプレックスな私にとって学びの多い一冊だった。すぐれた方向感覚の持ち主は、外向性、誠実性、開放性が高い。神経質な人はあまり新しい場所を探ろうとせず、空間に対する自信を高めるチャンスも少なくなる。GPSに頼ることで、私たちは空間に対して無関心でいられるが、それは無知を放置する行為だ。空間認知は人間の様々な感覚に影響を与えるらしいが、これまで私は現実空間に対して驚くほど無関心であったと思う。新しい店、はじめて通る道、行ったことのない街。もっと地に足をつけて、身近な現実を読み取る能力を高めていきたい2023/01/28
yc
6
空間認知というそもそも結構ニッチで専門的なジャンルの中ではこの本が一般書の中では最も詳しい部類の本だと思う。空間認知には場所細胞の他、境界細胞、方位細胞、格子細胞があり、まだ全貌は改名されていないが特定の細胞が特定の細胞を支援して空間を認知している。社会認知についても、自分のことを「あなた」といったほうが空間認知が働く。メンタルヘルスにも空間認知は強く働く。2025/03/22
coldsurgeon
6
GPS機能を利用したアプリに慣れてしまう現代人への警告であろう。人類は太古から「道を見つける力」を磨き上げながら、進歩してきた。人の成長の過程でも、その力を手に入れ、磨き上げ、そして創造的な力へと発展させていく。しかし、年齢とともに、その力は衰えやすく、いつか「道を失うこと」「迷うこと」になる。認知症は、道を失うことそのものである。初めて訪れる場所で、ランドマークを見つけ、目的地へ行く過程で、周囲の景色に関心を示し、記憶する過程で「道を見つける力」は磨き上げられる。GPSに頼ることにより多くのものを失う。2022/04/27