内容説明
親殺し・自殺・無差別殺傷の狭間で。無差別殺傷という不条理に真摯に向き合い、寄る辺なき不安と孤独のなかで、愛に疎まれて生育した子どもの心理機制と恐るべき事件に至る道程を養育的視座から根源的に解き明かす。
目次
第1章 「孤独」から考える
第2章 二重の母親
第3章 受けとめ手
第4章 加藤智大のものの考え方
第5章 相互に一方的な通交
第6章 自滅衝動と他者という容体の消失―トラブルの対処の仕方
第7章 掲示板について
第8章 事件へ
終章 愛に疎まれて―加藤智大の死刑願望をめぐって
著者等紹介
芹沢俊介[セリザワシュンスケ]
1942年東京生まれ。1965年上智大学経済学部卒業。文芸・教育・家族など幅広い分野の評論で活躍。現代の家族や学校の切実な課題、子どもたちの問題を独自の視点で捉えている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鈴
26
秋葉原無差別殺傷事件の犯人、加藤智大。事件ルポではなく、どのような心理で加藤が事件をおこすことになったのかなど、ちょっと小難しく解かれている。息子を持つ母親として、興味深い部分もある。ただ思うのは、普通の家庭環境ではなかったこと。ノンフィクション本の「“It”と呼ばれた子」にそっくりだと思った。加藤も弟から「あれ」と呼ばれていた。2016/05/28
しげ
1
子ども時代、母親との関係から身につけた「自分の怒りや腹立ちの理由、それにもとづいて起こした行動の理由を、怒りや行動を向けた相手はわかっているはずだ (なぜなら自分は母親から向けられた理不尽な怒りと行動の理由を考え、察し続けてきたから)」という思考法が、本人をどんどん孤立に追い込んでしまったことに、切なさを感じました。思考の癖は、人生を大きく左右してしまうこともあるのだと感じました。2018/12/20
itosan04
1
ラスネールの回想録がラスト突然言及されていて驚いた。加藤の4冊を読んだだけでは一生分からないだろう深い洞察。2016/08/03
ワンタン
1
芹沢俊介の本は、何て当たり前のことをわざわざ回りくどく言うんだと思う人もいるだろうし、実際には全然役に立たない理屈ばかりだと思う人もいるだろうが、私にとっては、とても現実的に有効な本だ。自分のような人間でも何とか家庭を維持できているのは、いくらかは芹沢俊介の本を読んできたおかげだと思っている。この本でも、無差別殺人をおかした人間の発言、手記から病んだ心、歪んだ心の成り立ちを丁寧に解析している。(確かにくどいことはくどい。)読み心地のよい本ではないが、読んでよかった。2016/06/29
八雲
1
10代の頃から芹沢俊介を追いかけて、90年代以降の著作はほとんど読んでいたと思います。芹沢さんの大きな仕事である養育論が一つの到達点に達したと思います。特に受けとめ手の章は自分が渇望して待ち望んでいた論考でした。人の存在の根源にある親からの愛がどのような構造になっているのかようやくクリアになりまた。多くの人が抱えている困難は親から受けとめられることがなかったことで起きます。この思想を土台として考えれば人が受け止められずに育ったとしても、成熟に至る道が見えてくるはずです。芹沢さん本当にありがとうございます。2016/06/17