出版社内容情報
「人格障害」というラベリングされた病名が一人歩きしている。「精神分裂病」が「統合失調症」と呼び変えられても、事態は不変のまま継続している。
イギリスのブレア労働党政権は、「人格障害」と診断されれば犯罪を惹起しなくても重装備の保安病院へ収容するという法案を準備している。大阪池田小学校児童殺傷事件の被告は、3つの人格障害を持つと鑑定されたが、「人格障害」と名付けられた人々を容易に保安施設へ収容してゆく恐れがある。
今まで刊行されたどの専門誌よりも充実した内容でお届けする理論編。
巻頭言 人格障害論の脱構築へ 高岡健(岐阜大学精神科)
座談会 なぜ人格障害はすわりが悪いのか? 宮台真司(社会学者/東京都立大学)+羽間京子(千葉大学)+高岡健(岐阜大学)+[司会]岡村達也(文教大學)
人格認識自体がもたらす「障害」について 鈴木茂(県西部浜松医療センター精神科)
回避性人格障害再考 中村敬 (東京慈恵会医科大学第三病院精神神経科)
人格障害論の現状と問題~精神看護から 大河内敦子(長谷川病院)+粕田孝行(元長谷川病院看護師)
人格障害論の史的展開 森山公夫(陽和病院院長)
精神病質論の行方 西山詮(錦糸町クボタクリニック)
人格障害と英国の新しい立法 大下顕(京都博愛会病院)
【連載】
老いのたわごと~今日このごろ 17回 浜田晋(浜田クリニック)
往診 東奔西走記~母親を生きる 14回 和迩秀浩(わに診療所)
【書評】
病名変更の向こう側へ 『統合失調症―精神分裂病を解く』森山公夫著 筑摩書房刊 高木俊介(ウエノ診療所)
『日本精神科医療史』岡田靖雄著 医学書院刊 小川恵(淑徳大学)
【研究論文】
袴田事件と自白 秋山賢三(弁護士)
1●
精神分裂病が統合失調症と呼び換えられようとするなかで、この近代100年の病いは、日本社会の内部に、不十分ながらも居場所を見出そうとしています。他方で、人格障害は、さまざまな下位分類を伴いつつ、社会からは異質なものとして排除されていく流れのなかに、身を委ねています。
その流れは、まず、いくつかの犯罪をめぐる精神鑑定や、自称精神医学者のコメントのうちに、見え隠れしています。大阪教育大学附属池田小学校事件の被告は、三つもの人格障害を有していると鑑定され、その他にも重大事件が惹起されるたびに、人格障害のラベルが、メディアを賑わす犯罪精神医学者たちによって、貼られ続けています。
そして、ついにというべきか、9・11ニューヨーク世界貿易センタービル事件の首謀者とされているウサマ・ビン・ラディンを、オウム真理教の麻原彰晃とともに、人格障害と名づける動きも登場してきました。
2●
ところで、日本の精神医療における歩みは、近年、精神科診療所の急速な増加をもたらしました。このことの意義は大きいのですが、その反面で、サイコバブルという非難も生まれています。元来、治療の対象かどうかが不明な「人格障害」者をたしかに存在しました。しかし、人格障害論へと至る前史を舞台とした映画=『一七歳のカルテ』は、さまざまな人格障害のラベルを貼られた少女たちを救抜したものが、入院や薬物療法や精神療法ではなく、ただ少女たち自身の生命力であったことを示しています。
いま、私たちは、人格障害概念に対する根源的な問いを、多様な立場から投げかけるべき時期に来ているのではないでしょうか。『精神医療』誌では、このような認識に立って、「人格障害のカルテ・理論編」と「同・実践編」を、二号連続で特集することにしました。もちろん、理論は実践に立脚し、実践は理論を内包するから、両者の境界は鮮明には区分できないのですが―。
本特集は、これまでのどのような専門誌の特集よりも、人格障害論の本質に迫るものであり、その意味で、精神医療業界にとどまらない、普遍性を有するものであると自負しています。時代の転換点に必ず亡霊のように出没する、人格障害の虚像を脱構築するために、本特集が、精神医療業界の内外をとわず、全ての方々のお役に立つことを、衷心より願う次第です。
2号連続企画「人格障害のカルテ」の理論編です。
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