出版社内容情報
「表現の自由」が保障され、かつ法的な検閲制度が存在しないなかでも、大衆によって「不適切な」表現が陰に陽に規制された時代──。現代にも通じるイギリス出版界の自己検閲の実態に迫るとともに、巧みな本文改変によって、氾濫する道徳主義と渡り合った作家トマス・ハーディの挑戦を読み解く。セジウィック『男同士の絆』の訳者による探究の頂点。
【目次】
序 章 検閲と大衆
1 検閲官「グランディ夫人」
2 検閲研究と問題の所在
3 本書が目指すもの
第Ⅰ部 ヴィクトリア朝の出版・検閲・読者
第1章 「清らかな」イギリス
1 悪徳の栄え -- ホーリーウェル・ストリート物語
2 道徳推進団体と外国人嫌悪(ゼノフォビア)
3 家庭の娯楽 -- 朗読・削除版・「弱い」読者
第2章 グランディズムと小説
1 純潔の指標 -- W・M・サッカリー対アントニー・トロロープ
2 新聞雑誌と曖昧な境界線 -- ウィルキー・コリンズの事例から
3 貸本屋と曖昧な境界線 -- ミューディ対ジョージ・ムア
4 出版の経済学
第3章 書籍と法
-- 表現の自由か、読者の保護か
1 猥褻物頒布規制法の成立
2 女王対ヒックリン裁判 -- 反カトリック文書か、ポルノグラフィか
3 悪徳撲滅協会対デケムウィリ --『ガルガンチュアとパンタグリュエル』論争
4 ヴィゼッテリー裁判 -- エミール・ゾラの英訳書をめぐって
第4章 表現の自由を求めて
-- 誌上シンポジウム「イギリス小説における率直さ」
1 自由の条件 -- ウォルター・ベザント
2 キャビネットの中の自由 -- イライザ・リン・リントン
3 自由の処方箋 -- トマス・ハーディ
第5章 改変の詩学と政治学
-- ハーディの挑戦
1 ジョージ・メレディスの教訓
2 戦略としての本文改変
3 戦略の有効性
4 エクリチュールの力学
第Ⅱ部 変幻するハーディ小説
第6章 『はるか狂乱の群れをはなれて』
--『コーンヒル・マガジン』の検閲に抗して
1 「高潔」なオウク
2 バスシーバの「改心」
第7章 『帰郷』
-- 出奔か、駆け落ちか
1 母の予言
2 エグドン脱出物語 -- 背信の翳
3 ユステイシアの死
4 盲目のクリム -- 道徳感情の行方
第8章 『キャスタブリッジの町長』
-- 暴走する正義
1 スーザンの欲望 -- 妻売りに同意した女
2 エリザベス=ジェインのアイデンティティ
3 キャンセルされるルセッタ -- スキミントンの「大義」
第9章 『ダーバヴィル家のテス』
-- 語りの余白
1 セ
内容説明
「表現の自由」が保障され、かつ法的な検閲制度が存在しないなかでも、大衆によって「不適切な」表現が陰に陽に規制された時代―。現代にも通じるイギリス出版界の自己検閲の実態に迫るとともに、巧みな本文改変によって、氾濫する道徳主義と渡り合った作家トマス・ハーディの挑戦を読み解く。
目次
検閲と大衆
第1部 ヴィクトリア朝の出版・検閲・読者(「清らかな」イギリス;グランディズムと小説;書籍と法―表現の自由か、読者の保護か;表現の自由を求めて―誌上シンポジウム「イギリス小説における率直さ」;改変の詩学と政治学―ハーディの挑戦)
第2部 変幻するハーディ小説(『はるか狂乱の群れをはなれて』―『コーンヒル・マガジン』の検閲に抗して;『帰郷』―出奔か、駆け落ちか;『キャスタブリッジの町長』―暴走する正義;『ダーバヴィル家のテス』―語りの余白;『日陰者ジュード』―訣別の書)
大衆検閲の時代再び
補論 本文編纂の歴史―ハーディ小説のエディションをめぐって
著者等紹介
上原早苗[ウエハラサナエ]
1991年英国ダラム大学大学院修士課程修了。現在、名古屋大学大学院人文学研究科教授。アメリカ・ハーディ協会編Hardy Review編集委員、国際ハーディ協会他Hardy Global Correspondents Project準備委員会・審議会委員を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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