内容説明
多数のイスラーム教徒が存在したロシア帝国。彼らはいかに生きたのか。日露戦争から第一次世界大戦・革命へと至る時代に、政治・行政・教育・出版・戦争・慈善等に積極的に関与し、言論と行動によって自らの「公共圏」を生み出したムスリム社会の苦闘を、かつてない深度で描き出す。
目次
帝政ロシアのイスラームと公共圏
帝政末期ヴォルガ・ウラル地域のムスリム社会
第1部 宗派国家とムスリム社会(イスラームの家の設計図―「良心の自由」と宗務協議会の改革論;マハッラの生活―統治制度から社会をつくる;政治的信頼度―カザン県におけるムスリム聖職者管理の実態)
第2部 地方自治とムスリム社会(カザンの休日―都市空間の民族関係と宗教的権威;マクタブか、公立学校か―義務教育に直面するムスリム社会)
第3部 戦争とムスリム社会(国民軍の中の宗派国家―従軍ムッラーの任命とムスリム聖職者の徴兵免除;総力戦の中の公共圏―慈善活動と女性の進出)
帝国の遺産とムスリム公共圏の変容
著者等紹介
長縄宣博[ナガナワノリヒロ]
1977年徳島県阿南市に生まれる。1999年東京大学文学部卒業。2006年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。現在、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター准教授、博士(学術)。『スラヴ研究』編集長(2010年~)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
BLACK無糖好き
15
著者は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター准教授。カザン留学経験があり、タタール人とロシア人の関係について肌感覚で認識しているような印象。本書は帝政末期のロシアにおいて、ヴォルガ・ウラル地域のムスリム社会が、国家との交渉を通じてムスリム公共圏を作り上げる経緯を詳細に分析し、①イスラーム行政、②地方自治体、③戦争、の個別具体的な項目における政策決定過程や実務を描出している。タタール語の新聞・雑誌とロシア語の行政文書を軸に、各都市の文書館の史料を入念に参照したようだ。かなりの力作。2017/12/25