内容説明
20世紀イギリスは、衰退に苦しむ福祉国家などではなかった。エキスパートが権力を握り産業界と手を結びつつ科学技術の開発に熱を上げた「闘志あふれる」国家の姿を大胆に描き出し、現代史の前提を覆す。現代史の神話をラディカルに破壊する野心作。
目次
第1章 戦間期の軍産複合体
第2章 戦争国家とイギリスのナショナル化 一九三九~五五年
第3章 エキスパート国家―戦間期における軍事・科学複合体
第4章 新世代の人々と新しい国家 一九三九~七〇年
第5章 反=歴史家と技術家官僚―「技術家支配期」再考 一九五九~六四年
第6章 戦争国家と「ホワイトヒート」 一九五五~七〇年
第7章 イギリス戦争国家の消滅
第8章 科学・技術・産業・戦争の関係再考
著者等紹介
エジャトン,デービッド[エジャトン,デービッド] [Edgerton,David]
1959年生。マンチェスター大学講師を務めた後に、科学・技術・医学史センター(CHoSTM)の創設に初代所長として携わる。現在キングス・カレッジ・ロンドン教授。専門は20世紀イギリスの科学技術史
坂出健[サカデタケシ]
1969年千葉県市川市に生まれる。1992年京都大学経済学部卒業。1995年京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。富山大学経済学部講師を経て、京都大学大学院経済学研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hurosinki
3
戦間期から戦後期にかけてのイギリスは衰退していたのではなく、むしろ精力的に軍備増強、特に研究開発に血道をあげ、戦争遂行能力において第一線級の能力を保持し続けたというもの。軍事技術が高度化し、国際化していったことでこの国家主義的な軍備政策は50年代後半から揺らぎ始め、60年代中葉にはウィルソン労働党政権が軍事研究開発を民用に振り向けようとし、次いで研究支出は経済成長と相関がないことが広く主張されるようになったことで戦争国家としての発展に終止符が打たれる。2020/03/18
わび
2
「衰退の歴史」「福祉国家」として描かれがちなイギリスの20世紀を技術官僚、軍人、実業家らが結びつき、軍備の維持、研究を絶え間なく維持した「戦争国家」として捉えなおす意欲的な書。通史的な書き方を採っておらず、読むのには苦労した上に、一読しただけでは「戦争国家」の全体像を把握できたとは言い難い。戦間期から冷戦期のイギリス軍の先進的な一面をある程度は知っていたからか、個人的には本書で提示されるイギリス国家像にそれほど斬新さは感じなかった。2018/07/09
ワッキー提督
1
20世紀前半のイギリス史について、従来の議論枠組みを批判し、2つの大戦の遂行から帝国の解体に至るまでの「強靭さ」を提示する一冊。 議論のベースとなる従来の議論になかなか馴染みがなく、あまり読み解けず、後半の「研究史研究」とでも言うべき部分は非常に難解だった。また、「枠組」を再提示する本書の方向性上、事実関係で新しい知見はあまり得られなかった。 訳文がやや難解であり、訳語の統一も徹底されていない点も気になった。 しかし本書の提示する「枠組」は、イギリス史に関心を持つのなら頭の片隅には置いておくべきであろう。2021/05/04
ノーマン・ノーバディ
0
序章、第1章、訳者あとがきだけつまみ食い。C.P.スノー『2つの文化』やマーティン・ウィーナー『英国産業精神の衰退』にみられるような「文系優位・技術軽視が大国イギリスの衰退を招いた」という見方が事実の基づかない神話(本書の表現では「反=歴史」)であったことを統計資料の読み解きによって示していく、という感じか。2023/12/03
NITF_117
0
非常にレベルの高い本です。この本を読んでからというもの、英国についての勉強意欲が向上しました。2018/02/14