内容説明
名前のない主人公「彼」は、1938年十歳の時、何の事前説明も受けず兄と二人だけで亡命させられた。このことを「彼」は追放と感じた。ミュンヒェン経由で、最初はフィレンツェへ連れていかれる。最終的な亡命地は、フランス・アルプスの町シャンベリから少し入った山間の奇宿舎だった。そこに匿われると同時に、同級生や教師によるイジメと虐待に曝された。こうして「彼」は、ドイツから「隔離」され、フランスから「隔離」され、また自らを他の一切から「隔離」しながら自我を形成する、より精確に言えば、切れ出すのである。この小説は、生き延びて現在パリに暮らす「彼」にとって永遠の現在である、亡命時代の自我形成をめぐる記憶のイメージを丹念に言葉に翻訳したものだ。