内容説明
前六世紀頃、神話の構想は抒情詩から切り離され、覇権意志の流れに添う転換期を迎えた。神の名は変わらず内容が逆転し、両者は融合できないものとなった。叙情詩人達は変死を遂げ、神話の記述は錯乱状態を残して、抒情詩は破壊された。抒情詩は、神話の文体と融合できれば、自然の中に蘇生を願う鳴き声を、絶望を超克する祈りに移しかえることができよう。そのとき記号a、b、cに因果律を当てはめれば、絶望の中から蘇生する共振音として響くだろう。a、b、cのパターンを媒介にして、自然界の系列的機能と詩の系列的構造とを合体させれば欠落部分の相互補完に役立つであろう。抒情詩との組み合わせによって、もう一度、発生期の神話構想の復活を試みたい。
目次
第1章 鳥の神話―身近な自然にことよせられた神話素材(死に関わる鳥の抒情詩;恋の鳥の抒情詩)
第2章 醸造神話―生産神話として関わりのある神を配置し救済を司る構想(ヘシオドスの醸造工程;ヘシオドスの意図 ほか)
第3章 水の神話―洗浄神話として閉ざされた秩序での神話からどのようにして開かれた社会の秩序に相応しい神話に変革しうるかが問われている(水域支配に対するアキレウスの不安―死生観を左右する水の働き;オデュッセウス水域放浪の豊かさ)
第4章 ガイアの神話―「イリアス」以前、抒情詩のガイアの守りを戦士ヘラクレスが引き受けた。「イリアス」の後期アキレウスはガイアの守りに挫折する(ガイア序説―ガイアの徒歩領域性の行き詰まり;ガイア域の認識論的特性 ほか)
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