出版社内容情報
江戸時代の都市で庶民の娯楽として定着した花見。当時の宴の様子や風習を追いながら、花見遊山の隠された意味や自然と人間との関係を論じる。
民俗・土俗・習俗にピントを合わせて書かれた花見の文化史。
【書評再録】
●毎日新聞評(1992年5月4日)=当時のお花見の様子が目に浮かぶ。たくさんつけてある絵も楽しい。
●北海道新聞評(1992年5月24日)=江戸の花見はどんな様子だったのか。当時の川柳や各地に残る記録を引きながら、実に生き生きと描き出している。ふんだんに添えられた浮世絵や名所図絵もこの本の大きな魅力だ。
●エコノミスト評(1992年7月7日号)=花見という年中行事よりも、むしろ花見の民俗、土俗、社会がいくら近代化・現代化されようともその低層から姿を現してくるような習俗にピントを合わせて書かれた1冊である。
【内容紹介】本書「はじめに」より
春、爛漫の花のもとにおこなわれる花見。現在なお春の国民的行事ともいえるこの催しは、江戸時代の都市で、庶民の娯楽として定着する。江戸時代のなかばをすぎると、全国各地の都市に多くの花の名所が成立し、梅や桜の開花にあわせて花見をする人びとのすがたが見られるようになる。そしてそれは、江戸でもっとも盛んにおこなわれた。
花見は当時の人びとにとって大きなたのしみであり、老いも若きも、女もこどもも、着飾ってうきうきと花見に出た。花の美しさと、あそびの楽しさと、群衆の喧噪のもとで、花見の人びとはふだんの生活をしばる規則やきまりごとを忘れ、いつもと違う自分になって自由にふるまうことになった。
晴れ着でめかしこんだ女たちを目にするまたとない機会であったから、男たちは、花の美しさよりもあでやかな姿に目を奪われがちであった。恋が生まれるかもしれないという期待は女にも男にも充分すぎるほどあり、その可能性を信じさせる雰囲気を花見はもっていた。花見の場で人びとは陽気になり、こっけいな仮装をし、茶番劇で群衆を笑わせ、笑った。大勢の人びとが行き交い、物売りが立ち、見世物が出る花見の場は、都市の臨時的な広場であった。
酒を飲み、踊り、歌い、放埒が許され、興奮が渦巻く花見で、人びとは単に花をながめたのではない。花のもとの空間と時間を生きたのである。春の季節のおとずれでよみがえった世界をよろこび祝い、自然のリズムに同調して人びともまた精神的よみがえりをはかった。それは、美の受け止め方のある形態であり、自然と人間との関係の、あそびにあらわされた一つのありかたであった。
【主要目次】
▲▲第1章・花見の時空=花の宵/郊外へ/花の名所/花の暮
▲▲第2章・花見遊山=春の遊び/野遊び/野遊びと花見/風雅の宴の伝統/都市の花見
▲▲第3章・花見小袖のあふれる花見=都市化する江戸/衣装くらべの場/自由の雰囲気/あけすけな接触/喧嘩とよっぱらい
▲▲第4章・行列、仮装、滑稽劇=師匠の花見/花見の仮装/仮面/パロディの精神
内容説明
都市にとって、花見の場とはどのような空間なのか。この現代都市論の主要テーマを、都市の開かれた祝祭空間、演劇空間として「花見」を再評価することを通じて解き解かす。
目次
1 花見の時空
2 花見遊山
3 花見小袖のあふれる花見
4 行列・仮装・滑稽劇