出版社内容情報
日本の水道行政のしくみと、構造的に抱える問題点を、10年におよぶ取材から明らかにした書。
11兆円にものぼる借金残高をかかえ、破綻しつつある全国各地の水道事業。その膨らみつづける借金と、今後、家計を直撃する水道料金のしくみをていねいに解説。
わかりにくい「水道破綻」問題の全体像に迫る待望のリポート。
【書評再録】
●毎日新聞評(1998年11月22日)=身近な「水道料金」をキーワードに、わが国の水道行政のかかえる問題点を徹底的に追及した好レポートである。
●産経新聞評(1998年11月17日)=ライフスタイルを変えても水道行政の構造を変えなければ値上げが続くという論点は分かりやすい。
●週刊現代評(1998年12月5日号)=丹念な取材に裏打ちされた好著である。
●月刊現代評(1999年1月号)=水道行政の驚くべき実態を暴くノンフィクション。500兆円を超える財政赤字を抱える日本のシステムの歪みが、水道行政からも浮き彫りになる。
●都政新報評(1999年7月23日)=1兆円を費やして水を3トンしか取れないという神奈川県宮ケ瀬ダム・相模大堰建設問題での、差し止め裁判における建設官僚の耳を疑いたくなるような証言に至るまで、よくぞここまで調べ上げた、という事例が沢山載っている。
【内容紹介】本書「本文」より
「東京の水って、こんなにまずかったっけ?」
何年ぶりかでニューヨークから帰国し、わが家に泊まっていった友人がいった。
冷蔵庫に冷やしてある水を飲んでの感想だ。自慢にもならないが、わが家では、ほんの気休めに蛇口に取り付けた浄水器を通した水道水を、木炭を入れたやかんで沸騰させ、冷ましたものにも木炭を入れて飲んでいる。高度な浄水器は10万円以上もするし、ミネラルウォーターも毎日のことだから高くつき、しかもペットボトルというやっかいなゴミの山を積み上げるから、非常用以外は買う気になれない。
それでこの努力なのだが、ニューヨークの生水よりまずいといわれたのは、ちょっとしたショックだった。そのうえ彼女は、「ニューヨークでは水道料金はほとんど払ってないよ」とのたもうた。いったいどういうこと?
東京23区内のわが家の水道料金は、下水道料金も込みで2カ月に1回、銀行口座から4000円から7000円が引き落とされる。変則的2人ぐらしのせいと、選択にはお風呂の残り湯を専用ポンプで移して使うという努力の結果、これくらいに収まっている。
そういう話をしたところ、都内で1人ぐらしの女性2人が口をそろえて、「安いじゃないの。私のところなんか1人で1回に4000円近い。単身者には割に合わない料金体系なのね」ときた。そのうえ、「徹底的に節水してみたことがあるんだけど、料金が少しも下がらないからバカバカしくなって、いまはじゃんじゃん使っている」そうだ。また、国分寺市に三人家族で住む主婦は、「あら、ウチなんか毎月12000円から3000円も払うんだから」という。
やはり女性は払うことに関しては、なかなかウルサイ。が、この生活感に裏打ちされた目で世の中をウォッチングすることがじつはたいつなのではないか。この本では、徹底的に生活する者・支払う者の立場から水道料金や水道のしくみを見ていくつもりである。
長いあいだ私たちは、日本の水はいい水だ、やわらかくておいしい水だ、と信じてきた。そして、水はタダ同然と思ってきたところがある。しかし、ここ10年くらいで急増したペットボトル水や浄水器の売れゆきを見るにつけ、そんな信仰が消えつつあることを実感する。
おいしく安全な水を求めることに余計な出費をするようになったうえに、タダ同然と思い続けてきた水道料金も、実際には全国平均で毎年数パーセントずつ上がっている。
良質な飲み水としては、多くの都市住民から見捨てられつつあるように見える水道水が、むしろこれから高くなっていくのだとしたら、どうだろう。それも、その負担から誰もが逃れられないとしたら……。なぜ、そうなるのだろう?
本書では、私自身の関心のテーマである水源開発との関係に焦点を合わせ、そんな疑問に対する答えを探してみたい。
毎日毎日、それこそ湯水のごとく消費している、身近な水という自然の資源。この唯一の国産エネルギー資源でもある水の開発や利用のされ方を知ること、それがどんな社会経済や政治のしくみの中で行われているかを明らかにすること。それが、この本で私が試みたいことである。
【主要目次】
▲▲第1章・水道がつぶれかかっている
▲どんどん上がる料金、開く格差
ウルサイ女たち
地味な水道料金
全国共通のキーワード
「値上げ」と「料金格差」
水道のジレンマ
水道事業というからくり箱を開ける
▲つぎはぎだらけの“独立採算”
市町村営の独立採算
借金と補助金漬け
営業収入も圧迫
本当につぶれないのか
▲「水資源開発」の主役となった水道
「東京五輪渇水」のインパクト
「水資源開発」の発明
都市用水開発時代へ
「水利権」というルール
ダムが増やした水
▲マクロな水の大きなツケ
“スーパー水道”の出現
人口の半分が閣議決定の水
水の中央集権化
広域化に1000億円
財政赤字に貢献
▲▲第2章・多目的ダムと水道---埼玉県・大野ダムの場合
▲「多目的ダム」の本当の目的
建具の村にダム話
困難なイレモノ
一人一日コップ二杯分
▲県民の水と取引
122億円、内訳は未定
水道負担たった7パーセント
「水価を下げられないか?」
初めにダムありき
▲水利権に泣く埼玉
防災から多目的へ
フルプランに乗るために
本当に水が足りないのか?
地下水を放棄させよ
県営ダム二つとも見直し
ダム見直しのウラ
ダムサイト争奪戦のツケ
▲▲第3章・特殊法人と水道---長良川河口堰の場合
▲ダムが終わる時代の河口ダム
ムダな公共事業のシンボルか
河口堰のある町で
日本はダム後進国?
▲かけ捨てられる600億円余
宮ケ瀬ダムが一つ半出現
工業用水はもういらない
ねじ伏せられた三重県
▲ツケは水道料金に乗せて
水道に堰もう一つ分
水道の負担額
いくら上がるか
年に6万円の上昇分
小さい町村に大きな負担
水資公団の落とし穴
財投という暴走のエンジン
▲▲第4章・広域水道と水源開発
▲山口・小郡広域水道の悲喜劇
“おらが水”を誇る人びと
ダムはできたけれど
需要のアテ、まるはずれ
借金を借金で返す
水道局職員の嘆き
県の計画に乗せられ
▲柳井広域水道計画の憂鬱
白壁の町の新しい水源
先行投資は500億円超
「高い水を捨てるわけにも……」
異常な「水価」と補助金
▲広域水道の死屍累々
80年代から失敗例
用水供給事業ほぼ赤字
補助金が過大投資誘う
▲広域水道を歴史的に検証すれば
ただの予測はずれか
「開発」と「浪費」の両輪
国が直接からむ水
広域化には市民が不在
▲▲第5章・1兆円で水3トン---神奈川県・宮ケ瀬ダムと水道
▲ダム・テーマパークへ
渓谷をうめつくす水
30年後の「お誕生」
コンクリート使用料日本一
▲宮ケ瀬ダムと双子の相模大堰
建設省の手の中へ
長良川タイプの堰出現
ダム二つ分の費用
“もう一つの自治体”
▲法廷にやってきたダムと堰
俎上にのった建設官僚
「ほとんど利水が目的だった」
何がなんでも15トン
「わがなき後に渇水よ来たれ」
▲まぼろしの水需要予測の上に
毎秒15トンの出どころ
ついに「いらなくなった」宮ケ瀬の水
企業団はつぶれない
▲値上げだけが待っている
横浜市議会ヤジの中で
四大水道、値上げ構造へ
“目玉”は移るが……
内容説明
日本の水道行政のしくみと、構造的にかかえる問題点を、10年におよぶ取材で明らかにした。11兆円におよぶ借金残高をかかえ、破綻しつつある全国各地の水道事業、その膨らみつづける借金と、今後、家計を直撃する水道料金のしくみを、ていねいに解説。わかりにくい「水道破綻」問題の全体像に迫る待望のリポート。
目次
第1章 水道がつぶれかかっている
第2章 多目的ダムと水道―埼玉県・大野ダムの場合
第3章 特殊法人と水道―長良川河口堰の場合
第4章 広域水道と水源開発
第5章 一兆円で水3トン―神奈川県・宮ケ瀬ダムと水道