出版社内容情報
歴史地震の専門家である著者が、古文書の収集・解析という歴史地震学の手法をそのまま火山に適用。
古代神話の時代から現代にいたる富士山噴火の歴史を、一般読者を意識したソフトな語り口でたどる。
産経新聞連載の全54話。
富士山の噴煙活動の消長のようすを明らかにする「年表付図」付。
【書評再録】
●朝日新聞評(1992年4月2日)=富士山の火山活動を「竹取物語」や「万葉集」などをはじめとする古文書から探り、今の静かな富士山がむしろまれな状態であることを浮かび上がらせている。
●科学評(1992年7月号)=歴史地震の専門家がその手法をそのままに、対象を地震から火山へとかえて適用した稀有な試みである。1話の長さも平均3~4ページと短く、1話1話が異なるトピックスをもつもので、どこからでも好きなときに読みはじめることができる。歴史時代における富士山の噴煙活動の消長の様子がみごとに明らかとなった。
●日本歴史評(1992年10月号)=各話完結方式で門外漢にも読みやすい。
【内容紹介】本書「はじめに」より
富士山はいま、火山としての活動をまったくやめている。静岡県や山梨県など富士山を間近に見る人たちにとっても、富士山は雄大な、そして静かな山なのである。そこに住む人たちのお父さんお母さんの小さいころも、さらにおじいさんおばあさんの小さいころもやはりそうであった。宝永の爆発(1707年)はさておき、富士山は昔から、ほかの大部分の山とおなじように噴煙のない静かな山でありつづけた、そのように思っている人も多いであろう。富士が噴煙をあげて火山活動をしていたころの記憶を、家の古老から聞き伝えで知っている人は、いまはまったくいないのではないだろうか。
ところが日本人ならだれでも知っている有名な話のなかに、噴煙をあげている富士を語っているものがある。それは「かぐや姫」で有名な「竹取物語」の最後の部分である。かぐや姫からもらった不老不死の薬を、日本でいちばん高い山の頂上で焼いた。それで、その山は富士(不死)の山というようになった。そして「それ以来、今にいたるまで富士の頂上には煙があがりつづけているのだ」。
三歳の子供でさえ絵本で読んで知っている、この話の結末は、子どもたちに一つの疑問を抱かせるのではないだろうか。
「だって、富士山に煙なんてあがってないじゃないか?」。
この子どもたちの疑問にはたぶん親たちは「昔は煙があがっていたことがあったのさ」と答えるだけですましてしまうであろう。しかしそう答えた親たちもまた、富士は昔、ほんとうに噴煙をあげていたことがあったのか、それはいつのことかと聞かれたら、おそらく窮してしまうにちがいない。
それならば、その同じ疑問を、火山の研究に日夜努力を傾けている火山学の専門家に向けてみたら? 専門の火山学の先生も意外なほど「富士が静かに噴煙をあげていた時代」をご存じなかった。
「かぐや姫」はあまりに有名な話であるが、ではそのほかの古典文学では富士の噴煙についてどう語られているのだろうか? この疑問から出発して、この本が生まれた。「万葉集」にはじまって、「古今和歌集」「新古今和歌集」「金槐和歌集」などの奈良・平安・鎌倉時代の和歌集、さらに、江戸時代の俳句集まで、さまざまな人が富士を詠みこんでいる。富士の噴煙は、奈良、平安、鎌倉、南北朝、そして江戸時代の初期まで、和歌、紀行文などの文学作品のかたちで、連綿と語られつづけてきた。各時代に生みだされた文学作品に現れる富士の姿を、ひとつじっくりみていくことにしよう。
【主要目次】
▲▲第1話・地震や火山活動の研究と古文書史料
▲▲第2話・活火山富士
▲▲第3話・富士の成り立ち
▲▲第4話・富士の噴火歴
▲▲第5話・第一証人・かぐや姫は語る
▲▲第6話・証人・菅原孝標の女
▲▲第7話・神話のなかの富士
▲▲第8話・「万葉集」の証言
▲▲第9話・柿本人麻呂の証言
▲▲第10話・富士出現伝説
▲▲第11話・古代の火山学者・都良香の証言
▲▲第12話・駿河国司の語る貞観の大噴火
▲▲第13話・甲斐国司の語る貞観の大噴火
▲▲第14話・証人・在原業平
▲▲第15話・証拠物件「古今和歌集」の和歌
▲▲第16話・「古今和歌集」序文
▲▲第17話・平安時代初期の和歌から
▲▲第18話・中国にも知られていた富士の噴煙
▲▲第19話・平安時代の後半、富士に噴煙はなかったか
▲▲第20話・鎌倉時代の和歌集から--前編
▲▲第21話・鎌倉時代の和歌集から--後編
▲▲第22話・鎌倉時代の物語と紀行文
▲▲第23話・鎌倉時代後期の和歌
▲▲第24話・噴煙が消えた! 証言者は飛鳥井雅有と阿仏尼
▲▲第25話・1260年代の噴煙の途絶
▲▲第26話・元弘富士川地震の発見
▲▲第27話・南北朝時代末の噴煙の再開
▲▲第28話・南北朝・室町時代の富士
▲▲第29話・明応東海地震と富士
▲▲第30話・戦国時代の富士
▲▲第31話・「宮下文書」をめぐって
▲▲第32話・「宮下文書」は残念ながら偽書であった。しかし……
▲▲第33話・「宮下文書」の伝える富士の祖神たち
▲▲第34話・「寒川神社日記録」と「富士史」
▲▲第35話・「人麻呂の暗号」再考
▲▲第36話・江戸時代初頭の噴煙と慶長地震
▲▲第37話・江戸時代の風流人たちの証言
▲▲第38話・宝永東海地震
▲▲第39話・宝永の大噴火--前編
▲▲第40話・宝永の大噴火--後編
▲▲第41話・宝永噴火の前兆伝承
▲▲第42話・砂降り被害と伊奈半左衛門の業績
▲▲第43話・江戸中期に残った富士山頂火口の噴煙
▲▲第44話・滅びた登山道、須山口と村山口
▲▲第45話・合目のインフレ
▲▲第46話・「修訂駿河国新風土記」の証言
▲▲第47話・19世紀前半の富士および山頂以外の噴煙
▲▲第48話・安政東海地震のその日
▲▲第49話・安政東海地震と富士の火山活動
▲▲第50話・荒巻の地熱--前編
▲▲第51話・荒巻の地熱--後編
▲▲第52話・安政東海地震と富士山頂の地熱点移動
▲▲第53話・1780年ころの西日本の噴火活動
▲▲第54話・富士山噴火史--総括
内容説明
「その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ」のくだりで終わっている『竹取物語』。その煙とは、富士山の噴煙をあらわしています―。古地震を研究する著者が、古典から現代のガイドブックまで、あらゆる資料を科学的に検証しながら、富士山噴火の歴史をたどり、解説したよみものです。
目次
地震や火山活動の研究と古文書史料
活火山富士
富士の成り立ち
富士の噴火歴
第1証人・かぐや姫は語る
証人・菅原孝標の女
神話のなかの富士
『万葉集』の証言
柿本人麻呂の証言
富士出現伝説
古代の火山学者・都良香の証言
駿河国司の語る貞観の大噴火
甲斐国司の語る貞観の大噴火
証人・在原業平
証拠物件『古今和歌集』の和歌〔ほか〕