内容説明
マッケンの創造した特異な怪奇世界になじめない作家や批評家もこの一篇だけは二十世紀に残る傑作として賞揚する。繁栄と喧騒の物質文明のさなかに、不可思議な幻想の光景が展開され、主人公ルシアンの幻想が描き込まれる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
28
景色の小説といいたいほどこの作品の風景描写はすばらしく、時に幻と区別がつかなくなる。中でもルシアン少年が見た、溶けた真鍮のような夕焼に包まれるローマ人砦の光景は尋常ではない。この風景はずっと彼の夢想の中にあって生き方を左右していく。堕落した世間を嫌悪し、恋人を称えながら蕁麻やバラで自ら傷つけ血を流し、文学に耽溺していく姿は鬼気迫る。彼の心にある無垢の浄土を垣間見ることは我々に許されていない。けれども彼が死の間際に幻視したロンドンの夕焼は、かつてのローマ人砦の再臨を思わせ、美しい余韻としていつまでも残る。2014/01/09
HANA
27
友達といる時や人ごみの中にあって、ふと孤独感を感じたことのある人、そういう人にとってこの小説は親和性が高すぎて危険。まさに精神のロビンソンという言葉がぴったり。内容は一人の青年の精神の彷徨を描いたもので、仕事は上手くいかず恋人は別の男と結婚という極めて欝なもの。ただ時折挟み込まれる主人公の幻視は極めて美しく、倫敦の只中にサバトを見たり故郷に理想郷を見たりするシーンは読みながら溜息をつかされた。圧巻はラストの幻視、主人公の一生が回顧される場面だが現実に帰らされる場面も含めて文章に酔う感じで一気に読まされた。2012/09/24
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