内容説明
悪と怪異と謎の巣ロンドンを舞台に十数章の奇話怪話を綴る。牧神の饗宴で飲む媚薬のために、骨も肉も溶けて汚物と化す凄惨目を覆う話など、発表当時から世界に比類なき汚穢文学と折紙をつけられた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
25
収録されている「三人の詐欺師」は子供の頃読んで自分の読書傾向を方向付けた一冊。一枚の金貨を拾った事によって、次々とこの世ならぬ話を聞くことになる話だが、いくつかの話は初読以来二十年以上経過しているにも関わらず覚えている。特に「白い粉薬のはなし」は未だに古くなった薬に抵抗があるほど。「黒い石印のはなし」とこの二つは忘れようがなかった。「鉄の乙女のはなし」「眼鏡をかけた若い男のはなし」は読んでいるうちに思い出せたし、ラスト一行はいつでも思い出せるほど。これを読まなかったらまた違った人生を歩んでいたと思う。2012/09/08
夜間飛行
4
「赤い手」は著名な心臓外科医が殺され、ポケットに妙な字体で書かれた意味不明の手紙が残されている。話が進むにつれて、この手紙の文句がロンドンの夜を封じ込めた一種の呪文に思えてくる。中でも「黒い天」という言葉が、呪術的な石を指すと同時に裏町の闇の深さを思わせる所がなかなかよい。「三人の詐欺師」は複数の小話を繋ぎ合わせた構成で、冒頭のギャングたちの会話が全体を荒っぽく括る役目を果たしている。この小説は、怪奇の中にある悪、そして生の不逞なエネルギーをうまく表現している。なんとなくバルザックや石川淳を思い出した。2013/02/17