内容説明
1908年6月18日、ブラジルのサントス港に、781人の労働移民を乗せた一隻の船「笠戸丸」が到着する―。後に世界最大の日系人コミュニティが形成されることになるかの地で、希望に胸を膨らませたヒデオ・イナバタは、いつか故郷に帰る日を夢見ながら、農場オウロ・ヴェルジで身を粉にして働くことになるのだが…。日本人移民の歴史を、ある家族の歩みに重ね合わせる、日系人作家によるジャブチ賞受賞作。
著者等紹介
ナカザト,オスカール[ナカザト,オスカール] [Nakasato,Oscar]
1963年、パラナ州マリンガに生まれる。日系三世のブラジルの作家。サンパウロ州立大学大学院において修士号(文学理論・比較文学)および博士号(ブラジル文学)を取得。現在、パラナ連邦工科大学教授。2011年に発表した『ニホンジン(Nihonjin)』でベンヴィラー賞とニッケイ文学賞を受賞し、翌12年にはジャブチ賞(小説部門)を受けた
武田千香[タケダチカ]
1962年、神奈川県に生まれる。現在、東京外国語大学大学院教授。専攻、ブラジル文学・文化(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ27
48
個人的にぐっと感涙を覚えた作品。しかし、写真も名もない扱いは酷い。石川達三で文字として触れたブラジル移民社会、その後北杜夫モノでも。しかし筆者ナカザト氏の視点は画期的な現代のソレ。イベリア系が圧倒的なブラジル文学にニッポンを活入。20C初頭の笠戸丸。悲劇の幕開けとして有名な時間に渡ったイナバタ家のヒデオ。当然、差別、虐め、開墾と農作業の刻苦、極貧、病と死の記述が悲惨。彼は【二ポ、ヤマトダマシイ】を胸に歯を食いしばる中WW1,2の影響を色濃く受ける。敗戦の社会で息子ハルオとの対立の構図が出来る・・カチグミ2023/03/07
kankoto
10
著者は日系ブラジル人3世の方。日本からブラジルに渡ったビデオ・イナバタ、そして家族の物語。大河小説だなと思った。1世の日本に対する思いの深さ、2世のブラジルに暮らす自分のアイデンティティ、親と子の対立。戦時下での迫害、戦後の同じ日系人の中での争い。 家族のそれぞれにスポットが当てられて物語が語られそしてこの一家の様子が大きく流れていく。最後の1世であるビデオと日本にデカセギに向かうという孫のノボルとの美しい静けさの中での昇華されたような場面、素晴らしかった。2022/08/14
今野ぽた
4
ブラジル移民となった「ニホンジン」の戦前戦中戦後をめぐる壮大なファミリーヒストリー。物悲しく、時の残酷さを知る。2022/07/12
イコ
3
ブラジルへ渡った人達の歴史を物語で知る事ができる。以前ブラジルの友達がユキを見た事が無いと言っていたけど、それを知ってると、胸が苦しくなるくらいの郷愁を感じる描写があった。歴史を小説で知るってのも面白いものですよ。2023/01/07
中海
3
タイトルからして、出稼ぎのためにブラジルに移住した一族の話という、直球ストレートで優等生な作品。パンイチで風呂に駆け込む準備しながら野球中継から目が離せないうちの父親を見て「結果だけ見りゃいいじゃん?」と思っていたが、ドラマが生まれる瞬間をファンとしては見逃せなかったのだろう。話はそれましたが、もうちょい読んでておもろいエピソードないとしんどい。やっぱ気質として日本人はブラジルに生まれても(作者)じっとり陰鬱なスピリッツ持ってんだな。そこはうまく表現してある。2022/11/21