内容説明
喪失を語りたいという欲望、喪失を忘れたいという欲望、喪失が起こる前に戻りたいという欲望―イシグロ作品に通底する中心的概念である“記憶”と“喪失”の複雑な関係を、フロイトをはじめとする精神分析理論、原爆の被爆者たちを対象としたトラウマ理論、ノスタルジアをめぐる文化理論などを援用しながら緻密に探る、はじめての批評的試み。
目次
序論 失われたものを思い出す
第1部 語りたいという欲望―喪失・記憶・叙述(かつての栄光という影―『浮世の画家』と『日の名残り』;語りのパターンを求めて―『浮世の画家』と『日の名残り』;第1部への結語 自己認識と自己欺瞞のあいだで)
第2部 忘れたいという欲望―喪失・記憶・トラウマ(亀裂を埋め、罪悪感を払う―『遠い山なみの光』;過去に幽閉されて―『充たされざる者』;第2部への結語 過去の亡霊)
第3部 帰還への欲望―喪失・記憶・ノスタルジア(失われた無垢を求めて―『わたしたちが孤児だったころ』;失われた楽園という避難所を求めて―『わたしを離さないで』;第3部への結語 いまも孤児であり続ける)
結論 手離してゆくのか?