内容説明
ニグロの老人が振るう杖の一振りにより、崩壊した館がたちまち元の姿へと戻り、亡くなったはずの館主の生涯をその死から誕生へと遡る傑作「種への旅」をはじめ、「夜の如くに」「聖ヤコブの道」を含む旧版に加え、時間の枠組みを大きく逸脱させるユーモアとアイロニーが散りばめられた「選ばれた人びと」「闇夜の祈祷」「逃亡者たち」「庇護権」の四編をあらたに加えた決定版カルペンティエール短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネムル
16
「未来の記憶であると同時に過去の予告」とのフエンテスのコメントは言い得て妙だが、と同時にどこか時の静止したような、無時間の場に放り込まれたかの感すらある。「種への旅」はもとより、円環に向けて流れる「聖ヤコブの道」において一層、時への痛苦が増して疲れる。この疫病と焦熱地獄に当てられながら、全然関係なくもディスクシステムのマリオ2(激難+ループ面)を思いだし、空に浮かぶヤコブの道が天井裏のワープに見えてくるに、己が頭の惑乱を自覚す。けだし傑作であろう。2020/05/01
三柴ゆよし
16
再読。鼓直訳の「種への旅」「夜の如くに」「聖ヤコブの道」「選ばれた人びと」に、初訳となる「闇夜の祈祷」「逃亡者たち」「庇護権」を加えた短篇集。「聖ヤコブの道」は、バロックな文体、ケレン味あふれる描写、完璧な物語構造……とおよそ自分が短篇小説にもとめるものがすべて詰まった作品である。ひさしぶりに読み返したが、やはりものすごくよい。「聖ヤコブの道」や「種への旅」に匹敵するほどの技巧的成熟はないものの、初訳の作品も佳作揃い。特に「逃亡者たち」は犬好きにはたまらない。惜しむらくは鼓直の解説が収録されていないこと。2020/03/08
mim42
7
あまりポジネガの無い読後感。できることなら、山荘や海辺のような時がゆっくりと流れるところで読みたかった。最後のクーデターの小品は、これぞ南米文学の扱うテーマというベタさが良かった。カルペンティエール、以前別の作品を何作か読んだ時はなかなか興奮したものだが、作品のせいか読者の加齢のせいか今回はさほどな。2024/12/15
ふゆきち
2
戻ったり、繰り返したり、ぐるぐると回ったり。縦横無尽な時間を扱った話が中心の短編集。『種への旅』がドラマチックで印象的でした。2023/06/27