内容説明
前途有望な兄ラシェルの突然の自殺に見舞われた弟のマルリクは、遺品として兄の日記を手渡される。日記をめくるごとに明らかになっていく兄の心境と自殺の動機、そしてナチスに加担した過去をもつ父親の存在…。人がもつ孤独の闇と、それでもなお人を信頼する希望の光を、シラー兄弟の日記を通して重層的に物語る傑作長編。
著者等紹介
サンサール,ブアレム[サンサール,ブアレム] [Sansal,Boualem]
1949年、テニエト・エル・ハード(アルジェリア)生まれ。作家。アルジェ国立理工科大学卒。工学(学士・修士)と経済学(博士)の学位を取得。専門研究員の傍ら大学教員などを務めた後、産業省の高官となるも、2003年に罷免される。1999年、デビュー作『蛮人の誓約』を刊行後、体制批判、人権擁護、イスラーム過激主義告発の姿勢を貫く旺盛な執筆活動を展開。自由主義者として欧州で高く評価され、ドイツ出版協会平和賞(2011年)、フランス・ライシテ委員会によるライシテ賞(2018年)などを受賞
青柳悦子[アオヤギエツコ]
1958年、東京生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。現在、筑波大学人文社会系教授。専攻、フランス系文学理論、小説言語論、北アフリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
100
父がドイツ人で、母がアルジェリア人のフランスに住む兄弟。母がドイツ人で父がアルジェリア人なら、イザベル・アジャーニだと思い、そうすると2人の顔が想像しやすいような気がした。作者はフランス語で作品を書くアルジェリア人。ナチのことをこういう風に描くのは、少しずっこいな。アルジェリアの内戦、フランスの植民地政策、そしてナチスを含め、上手く器用にまとめたものだ。しかし、兄がそこまで追い込まれる理由を体感出来ず。ここで躓くと全体への共感に無理が生じる。2020/06/10
ヘラジカ
48
アルジェリア人作家による出世作。同作者による『2084』は、その年の海外小説でベスト3に選ぶほど好きな作品なので、こちらの邦訳を知ったときは喜んだ。しかし、想像していたよりも数倍は重い小説で、読み終えてから暫く経った今もどんよりと胸に淀むものがある。戦後世代が繰り返してきた問答、倫理における究極の問いかけを、狂気に憑かれたような手記で畳み掛けるように読まされ、精神が磨り減るような感覚すら味わった。巨大な機械の歯車であることと、それに対する責任という問題は『2084』へと通じているのだろう。精神にくる力作。2020/05/07
chiro
6
なんて気の滅入る本なんだろう。確かにストーリー的にはナチスの歴史や現代の抱えるイスラム教について考えさせられるところもあるけれど、挑戦的で根性のある弟マルリクに対し、真面目過ぎてどんどん自分を追い詰めて深みにはまっていく兄ラシェルの日記は読んでいる方が精神を病みそうになる。途中で止める気にはならなかったけれど読み終えて力尽きた感がある。2020/06/12
yurari
2
自殺した兄ラシェルが遺した日記を手にした、弟マルリク。何故兄が死を選んだのか。兄がたどり着いた、生と生との間にはある契約が存在する、という考えは何度読んでも理解できなかったが、父親の人生をなぞっていくなかで達した境地なのだろう…。そして、その兄の行動を辿る弟。親の罪は子供達にも責任を負わせるものなのか…。考えさせられる。訳者が言うように圧倒的なドライブ感があり、ラストまで一気に読んだが、急ブレーキをかけられて窓から飛び出し、知らない土地に降り立ったような読後感(良い意味)2023/07/29
8bunbun
2
兄弟のそれぞれの視点から父の過去に出会っていく。この出来事の別方向からの面。どのみちしんどい。2020/06/09